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フォッフォッフォッ
『負の数×負の数 』

星 令奈

星奈出版

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「序」

  先日、こんな本を見つけました。

  『 おい点P、動くんじゃねえ! | 晶文社』
  
 この中の一文がきっかけで、以前からあたためていたことをまとめてみました。

 本書では、中学1年生のときに「正の数・負の数」のことを学び、2年生になり「一次関数」も習ったころの生徒さんを想定して授業を始めます。

  本作は下記「note」でも無料でお読みいただけます。
 https://note.com/dragon_moonpath/n/n2ddc534aed4e

「第1時間目」

教師:みなさんは1年生の時に「正の数・負の数」と「その計算」について学びました。今日は「負の数」そのものからお話しますが、「負の数」については、小学生のころから聞いたことはあったでしょう。

 天気予報で「明日は氷点下5度近くまで下がりそうです」と発表されたときには、 水が凍る温度の「0℃」を【基準】として、それよりも寒暖計の目盛りが5個下回ることを言っていますね。

 また、ある商店の特定の商品が、毎日の平均で10個ずつ売れていたとして、今日、売れた個数が8個だった場合には、平均の個数を【基準】として、「今日の売り上げ個数と『基準になる平均』との差は、ー2個だった」といっても通じるでしょう。
このように、みなさんにとって「マイナス」の数は学習済みでしょうし、使えないと恥ずかしいですよね。
 フォッフォッフォッ.

生徒X君:センセイはバルタン星人だったんですか?(いやな予感がする)

教師:まあまあ、とりあえず問題です。

ある晩、私の家の裏口に2匹の野良猫がエサをねだりに来ていました。そして、朝になると猫の数は、なんと3倍になっていました。
さて、朝の猫の数は何匹になったでしょうか?
ちなみに、これは「いじわるクイズ」ではありません。裏口のドアを開けたら猫は驚いて逃げて行った、ということはありません。

生徒たち:(2匹)×(3倍)=6匹、だから6匹です!

教師:みなさん!ご名答です。簡単すぎてごめんなさい。

教師:では、次の問題です。

ある晩、私の家の裏口に「マイナス2匹」の野良猫がエサをねだりに来ていました。そして、朝になると猫の数は、なんと「マイナス3倍」になっていました。さて、朝の猫の数は何匹になったでしょうか?

みなさんは「正の数・負の数の計算方法」も習っているはずですし、その計算の規則を守らないと、期末テストも高校受験もできませんからねぇ。フォッフォッフォッフォッ.

さあ、お答えください。

生徒:……?

教師:えっ? いかがですか。 誰か答えてください。

A君:(ー2匹)×(ー3倍)=6匹、ですけど?

教師:計算は合っていますよ。みなさんもそうなりましたか?

B君:センセイ、なんか、おかしいです。

C君:そもそもぉ~、「マイナス2匹の猫」っていうのが、ヤバくね。

教師:えっ、さっき【基準】を決めればマイナスの数も使えるというお話をしたでしょ。わたしは、いつもの猫の数を【基準】にして、その夜は「ー2匹」としたのですよ。フォッフォッフォッ.

Dさん:じゃあ「ー3倍」ということが、ありえないのではないですか。

教師:ええっ、そうなのぉ? みなさんは、「負の数の掛け算」も習っていたでしょうに。フォッフォッフォッフォッ.

生徒:「???」



    -----教室には、しばらく沈黙が続いた-----


教師:じゃあ、そろそろ、まともなお話をしましょうか。

みなさん、A君が発表してくれた式は
(ー2)×(ー3)={(ー1)×(2)}×{(ー1)×(3)}、と書けませんか。

この式は掛け算だけからできているので「交換法則」により、その順番を変えることができます。

2×{(ー1)×(ー1)}×(3)

問題は、真ん中の、(ー1)×(ー1)なのです。
わたしは、このことをベテランのM先生に聞いてきました。

では、黒板に注目してください。

      ーーーーー「黒板」ーーーーー

「分配法則」を使います。

(ー1)×(ー1)+(ー1)×1=(ー1)×{(ー1)+(+1)}=0

よって、(ー1)×(ー1)+(ー1)×1=0・・・・・①

次に、1×1+(ー1)×1={1+(ー1)}×1=0

よって、1×1+(ー1)×1=0・・・・・②

ここで①と②を比較すると、

(ー1)×(ー1)と、1×1とは、同じ値である。・・・・・(*)

ネコの問題に戻ると、
(ー2匹)×(ー3倍)
=(ー1)×2×(ー1)×3
=2×{(ー1)×(ー1)}×3
=2×{(+1)×(+1)}×3・・・・・(ここで*を使った)
=2×1×3
=6・・・・「答」

      ーーーーー板書終わりーーーーー


教師:以上ですが、計算だけは納得してもらえましたかね。

C君:そうか!これが(負の数)×(負の数)が(正の数)になるっていうガチの説明だったのですね。

教師:そうなのですよ。私にとっても、M先生のおかげです。
しかし、ここからが、大人たちも迷わせている大問題なのです。
(-2)×(-3)=6とは、実際にはどのようなことが起こったと捉えたらよいでしょうか。

今日は、その例をあげることを、遊び心もある「ゆるい宿題」にします。
この「ゆるい」という意味は、数学的に厳密でなくてもいいですよと、いうことです。
猫以外の例も大歓迎です。



「第2時間目」

E君:先生、この例ならどうですか?
「2万円の借金」を負の数として、3回返したとします。
(-2万円)×(-3回)=6万円・・・・・③

教師:ほほぉ~

生徒たち:それでいいんじゃね。

教師:実は、AIも同じような答えを出していましたけどねぇ。

生徒:そういう言い方、止めて欲しいですけど。

教師:まあまあ「AIと生徒は使いよう」ってことですよ。

生徒:相変わらず変なセンセイ。

教師:みなさん、「Eくんの説明と③式」だけでは、6万円を得したようにも思えませんか?
AIもその点で,誤解を招きかねない回答を作ってきたのです。
宿題をやってきたE君には、もちろん、よい点をあげますけどね。

E君:あっ、そっか。「6万円」が湧いてきたみたいですね。

教師:そうなんだよ。ここからが「みんなの頭の使いよう」だね。

生徒:うう~~ん。

教師:今回の「ポイント」は、2個目の「マイナス記号」なのですよ。

生徒:マイナスはマイナスじゃね?

教師:実は、そういう簡単なことでもないのですよ。
では、③式をこう書きます。
(-2)×(ー1)×3・・・・って、間違っていないでしょ。
左半分の、(ー2)×(ー1) とは、
「2万円の負債」を「反転させる」というイメージを持てませんか。
(後注をご参照ください)
そして「反転させる行為」を「3回」行えば、その人の会計では「借金をする前の状態に戻る」ということになりませんか。
これでEくん自身も納得できましたか。

Eくん:あっ、「反転させる」ということですかあ。

教師:この後も【反転させる】をキーワードにして例をあげてくださいね。

F君:センセイ、いいっすか。
ビルの11階にいた人が、エレベーターでうっかり2階分、下の階におりてしまいました。
愚かなことに、それを3回もやっちまったら5階に来たそうです。
その人は、直前の11階に戻ろうとしました。
5階+{(ー2階)×(ー1:戻る)×(3回分)}=11階、元の階に戻った。

生徒:おおぉ~。

教師:Fくん、よくぞ考えましたね。OK牧場!
もう、みなさんは、「マイナス記号が、負の値を示す」ということだけではなく、さらに「マイナス1をかけることは、反転させること」だと、気づいてきたでしょうかね。

Gさん:センセ、私もいきます!
私の家の工場は、まあまあ順調なのですが、時には商品の「返品」もあるのです。
先月、2箱の荷物が3店舗から返品されました。
その式は、(ー2箱)×(ー1:戻し)×(3店舗)=6箱、
これは、(ー2)×(ー3)=6、これは6箱が元に戻ったっていうことです。

教師:そうそう。「マイナスの記号」って興味深いでしょ。

H君:猫の話を考え直してみました。「マイナス」って「元に戻った」と考えると、
たくさんの猫を保護しているセンセイの家から、二匹の猫が家出をしました。そんなことが3回もあったのですが、なんと、その都度、捕獲することに成功したのです。その式は
(ー2匹:家出)×(ー1:戻る)×(3回)=6・・・元に戻った猫の数。

教師:さすがはH君、いいですねぇ。

教師:じゃあ、Hくんの流れにのっかって応用問題を出します。
今月のことです。我が家の猫が2匹ずつ3回、家出をしたのですが、
そのうち2回分の家出猫は、無事に捕獲できました。
さて、今の猫の数と先月の猫の数の差は、何匹でしょうか?

Jさん:(ー2)×{3+(ー1)×2}=ー2、先月との差で~す。

教師:うん、Jさんの計算は正しいし、最速の式ですが、
私はスローモーションのような式を作ってみます。
(ー2)×3=-6匹・・・・・猫の数が6匹減ったこと。
(ー2)×(ー1)×2=4・・・捕獲できた猫の数。
すると、二つの式から
(ー6)+4=ー2・・・・・先月との差です。

みなさん、今日も頑張りましたね。
「(負の数)×(負の数)は、なぜ(正の数)になるのか」から始まって「負の状態を反転させる」ことまで考えました。
ただ、現実の例を無理に考えることは、もうしなくてもよいことにしましょうね。そんなこともありますから明日は違う観点から同じテーマを考えますよ。

X君:センセイ、ちょっと待った!

教師:どうしましたか?

X君:俺が思うに、猫のときの「基準」ってなんなの。F君のエレベーターの例だと、間違って下りたフロアの位置?それとも、戻ったフロアの位置?

教師:そういえばそうだねぇ。F君に聞いてみようか。

F君:「基準」?、そんなものなくたっていいじゃん。間違って下りたフロアと、戻りたかったフロアがあるだけだと思うけど。

        ~~~教室は沈黙する~~~

A君:あっ、そうか。先生に騙されていたんだよ。「マイナス2匹の猫」が、さもあるかのように、正当化させるための先生の罠が「基準」だったんだ。それで宇宙忍者バルタン星人を気取っていた訳だ。

教師:君って、ウルトラマンみたいにカッコいいね。

(生徒たちから拍手が起こるが、教師は続けて)

教師:そうなんだよ。たしかに私は、みなさんを煙に巻いていました。
「基準」などという曖昧な言葉を振り回さなくても「猫が2匹いなくなった」でよかったのです。それならば、素直に実感できるでしょう。

(ー2)×(ー3)=+6,については、もう具体例から離れましょう。数学では、昨日C君が「ガチの説明」と言ってくれたときの、私の説明で十分だったのです。

次の時間にはグラフを使ってビジュアル的に説明しますからね。

「第3時間目」

教師:きょうも、(負の数)×(負の数)は(正の数)となることを実感してもらいます。

A君:センセイ、昨日のことで悪いんだけど、「基準」って捨て切らなくてもいいような気もするんですよねぇ。

教師:いやはや、今日は突っ込まれる立場だね。
わたしは、「基準を作れば―2匹の猫がいてもいいんだ」と、みんなを迷わすために使ったんだけど、あらためて考え直しておきましょう。

理科の時間の「重力による落下の実験」を思い出してください。
小さな球を手から放して落としたとします。
そのとき、手の位置を「基準」にするのか、球が落ちた「床の位置」を基準にするのかでは、計測された数字は違うでしょう。
いま「基準」と言いましたが、その「特別な点」は、正しくは「原点」と呼び、『物体の運動を観測したり、記述したりする人』が決める点であり、力学などの記述式問題でも「原点と座標軸の設定」から解答が始まるのです。

一方、今回の「具体例」を考えるときに、あえて「基準」というならば、「猫が揃っているとき」におくか、「猫が6匹いなくなっているとき」におくかですが、実は、昨日、教科書出版社の数学担当の人に聞いてみたんですよ。

生徒:でっ、どうでした?

教師:う~~ん、基準なんて聞いたことがないって、

        ~~生徒たち大爆笑~~

X君:教科書会社は騙せなかったってことですね。

教師:しょうがないじゃない。「基準」なんて、今回の「仕掛け」だったんだから。

繰り返しますが、不思議な「ネコの問題」とは、「2匹の猫が3回続けていなくなった。合計何匹の猫がいなくなったでしょう」と言い換えれば、日常生活の中では何の支障もなかったのです。
そういうことでよいでしょうか。

(ここで、教師は生徒の納得した様子を確かめたうえで、黒板にx-y平面を描いた)

さて、平面上で「x軸とy軸が交わる点」を「原点」と言いますが、みなさんは、この「原点の記号」をなにげなく書いていませんか。
その点は「数字のゼロ:0」ではなくて
「アルファベットの大文字のオゥ:O」であり「originのO」なのです。

生徒:「へえ~、いいこと聞いた」

Jさん:でも先生、数直線上の原点だったら、30センチの定規みたいに「ゼロ:0」のほうが気持ちいいんですけど。

教師:あっ、私が言葉足らずでした。
x-y平面の原点という特別な『点』は「O:オゥ」で表しますが、
「座標」はゼロを2個使って(0,0)だということを忘れていました。
そして、Jさんの質問には、数直線上の原点という『点』は「O:オゥ」ですが、「座標」は(0)ですと、答えておきます。

教師も生徒さんとともに育つものですよ。

X君:センセイって、うまい言い訳するんだ。

教師:では、わたしは、y=ー2xのグラフを描きたいので、
「y=ー2x」の「x」にいくつかの値を代入してみましょう。
x=3のとき、y=-6
x=2のとき、y=-4
x=1のとき、y=-2
そして、
x=0のときには、y=0
これらの点を通るように、半直線が引けますね。


y=-2x(x≧0)

今のところグラフは、原点と第4象限にしかありません。
さあ、xの値が負になったとき、グラフはどうあって欲しいものでしょうかね。
K君:そりゃもう、そのまんま左上の方に、ビヤーと延ばすだけでしょ。
教師:そうだよね~。そう思うのは当然だし、間違っていないのですよ。
ただ、今度は、「y=ー2x」の「x」に負の値を代入することになるから、やはり「(ー2)×(負の数)」という問題に再会することになります。

さっきの代入の記録を、ここにもう一度書いてみます。

x=3のときには、y=-6
x=2のときには、y=-4
x=1のときには、y=-2
x=0のときには、y=0

ここで、yの値の変化を振り返ってみてください。
xの値が「1」ずつ減少するとき、yの値は「2」ずつ増加しています。
そして、この規則を守り続けると
x=-1のとき、y=0+2=2
x=-2のとき、y=(0+2)+2=4
x=-3のとき、y=(0+2+2)+2=6

Lさん:あっ「-2という係数」と「負の値の変数x」をかけると、
「yの値が正」になるってことですね。

教師:そうなのですよ。だからグラフでも「xの値が負のとき」、
yの値は正になり、第二象限で、左上に向かって「ビヤー」っと延長していくことになりますよね。

y=-2x

M君:ちょっと先生さあ。俺たちを煙に巻こうとしていない?

教師:ほお~、なんで?わたしが「宇宙忍者」だから?(笑)

M君:だって、いま、「足し算」しかしていないじゃないか。

教師:そうだよ。いけなかったかな。

M君:えっ?

Nさん:ああ、掛け算の基本ですね。M君さ、例えば「九九の2の段」だったら答えは「2,4,6,8,10・・・」と「2ずつ」増えていったでしょ。
先生は、答を「2ずつ」増やしていくことで掛け算をしたんですよ。

教師:Nさん、フォローありがとう。私の今の立場では「ー2」を「負の値x」にかけることを回避したかったのですよ。

M君:センセイって、意外と基本に忠実な教師なんだ。

教師:いやいや、「(負の数)×(負の数)=(正の数)」を、すでに知っていたような計算をしたら、元も子もないでしょう。

生徒たち:ほほぉ~。

以上で、(負の数)×(負の数)は(正の数)の授業を終わります。



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これで教室からの中継はおしまいです。

お読みいただきましてありがとうございました。
また、今回もお世話になったM先生には心より感謝いたします。

 
            「了」


「後注」

 読者の皆さんの中には「複素数平面」を学んだ方がおられることでしょう。複素数平面では、i を掛けることは90度の回転に対応します。

  「 i² = −1 」ですから、i を2回掛けることは180度の回転、すなわち「反転」です。

 つまり、 ×(−1)=「反転」、と見ることができます。

 では、反転をもう一度すると、(−1)×(−1)=1 となります。

 「反転の反転は、元に戻る。」

 本編で生徒が発見した「−1を掛ける=反転」という見方は、複素数平面にも現れているのです。

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M先生からいただいた図

フォッフォッフォッ『負の数×負の数 』

2026年8月30日 発行 初版

著  者:星 令奈
発  行:星奈出版

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