spine
jacket

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SF雑誌オルタニア
vol.4.5
[ヨネタニア]
20th Anniversary

米田淳一

ゆかいな仲間たち

オルタニア編集部



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 目 次

鉄研でいずOP

20周年によせて 筒井詠雪

田舎町のカフェより 神楽坂らせん

アーくんのおうち 竹島八百富

似顔絵 矢越幸奈

シファとミスフィ かわせひろし

米田米穀店開店二十周年記念餅搗き大会に寄せて 折羽ル子

祝 作家生活20周年 松本好信

ストーキング宣言 くみた柑

作家と成人式 ろす

レシピ 雫

女性型女性サイズ戦艦は鉄道模型の夢を見るか 多千花香華子

ヨネデンキューブ にぽっくめいきんぐ

プリンドーム・プライマル 淡波亮作

オルタニア国物語 波野發作

とても壊れやすいもの 山田佳江

えふらぁーむばふぐあのたいーずる 伊藤なむあひ

シファと総裁へ 米田淳一

編集後記という名の反省会

廿周年記念の辞


 作家・米田淳一は作家である。


 朝起きて、再び眠るときまで、作家である。


 朝食を食べるときも、昼飯を食らうときも、
 夕食をいただくときも、作家である。


 健やかなるときも、病めるときも、作家である。


 昨日も作家で、明日も作家である。


 書いている日も、書いていない日も、米田淳一は作家である。


 二十年。米田淳一は作家として生きた。


 n十年後、米田淳一は、作家として死ぬ。


 その日まで作家・米田淳一はひたすら作家なのである。

鉄研でいずOP

 作詞:波野發作+淡波亮作
 作曲・うた:淡波亮作
 ゲスト:山田佳江




線路をつなぐよ Everywhere (keep on rolling, night and day)
いっつもガッタンゴットン夢乗せて
君が好きだよ Run away
僕とおいでよ Go aboard
プシュッと鳴ったらドア閉まる

キハ キロ キシ キヤ
「白線の後ろにお下がりください」
クハ モハ サハ サロ
「駆け込み乗車はおやめください」
キハ キロ キシ キヤ
「駆け込み乗車はおやめください」
クハ モハ サロ サハシ サハネ
「駆け込み乗車は──、駆け込むなー!」

乗り鉄、撮り鉄、音鉄、時刻表鉄、模型鉄、コレクション鉄、
テツ道いろいろ数あれど

目指すは鉄道王(四級!)
泣き顔グランプリ
人型決戦描画兵器

バカじゃないもん
「写真を撮影する時はァ、他の方の迷惑とならないようにお願いします」
模型製作理論実践
「フラッシュは焚かないでください」
IQ800超頭脳
「フラッシュは焚かないでくだ──、フラッシュは焚くなー!」

列車を追いかけろ forever (keep on rolling, night and day)
いつでもワクワク 胸膨らませ
胸膨らませ 胸膨らませ!
ヒドイっ!

列車を追いかけろ forever (keep on rolling, night and day)
いつでもワクワク 胸膨らませ
みんなで行こうよプラットホーム
白線の後ろで we’ll be waiting
シグナル替われば 録画オン!

「前に乗りださないで!」
「柵に寄りかからない!」

線路をつなぐよ Everywhere (keep on rolling, night and day)
いっつもガッタンゴットン夢乗せて
君が好きだよ Run away
僕とおいでよ Go aboard
プシュッと鳴ったらドア閉まる

線路をつなぐよ Everywhere (keep on rolling, night and day)
いっつもガッタンゴットン夢乗せて
君が好きだよ Run away
僕とおいでよ Go aboard
プシュッと鳴ったらドア閉まる

お祝いのメッセージ

20周年によせて

for 20th Anniversary

筒井詠雪
Eisetsu Tsutsui


1976年製 スーパのチェッカーで日々生き繋ぐ傍ら、
絵描き、漫画家、デザイナー、お針子、
コミケ系サークル、準星空案内人などで浅く広く生きる人。
水瓶座で辰年のA型。神道主義者。



 米田淳一さん(以降米田くん)生誕20周年(違う)もとい、作家活動20周年本当におめでとうございます。
 思えば米田くんの処女作がわたくしめの地元に在庫していたものを確保するというミッションと言うのが私たちの詳しい事の始まりだったのではないでしょうか。あれからまさか結婚したり、まさか離婚したり、色々ありましたが、今でも私は米田くんの一番のファンであり、応援者であり、ストーカー(笑)であると思っています。
 弱気になった米田くんを叱咤激励してケツを叩き、そうかそうかと話を聞いていくのが、一生の私の役目だと思っていますんで、頼れる時は頼ってください。だから、私の愚痴も聞いてください。(等価交換)これからもびっくりするような作品楽しみにしてます。
 楽しんで仕事してください! 頑張らなくていいので、楽しんで下さい。これからもよろしく!



ただ君はそれを求めて
ひたすらに
時間のその先の先まで。

筒井詠雪

イラストについて


寄稿はイラストに成りました。一応、筒井は絵描きを名乗っているので(笑)
米田くんの作品「プリンセス・プラスティック」より、
超絶美形カップルのシファと鳴門くんです。
彼らは著書の中で米田くんが「ものすごい美形だ」と
書いてしまったばかりに今までのイラストレーターさんに
微妙にぼやかされて書かれたかわいそうな主役さん達だと思っています(涙)

なので、今、筒井が出来うる超絶美形で描かせて頂きました。
ちょっと今見るとデッサン狂いも否めませんが、気にしないで、
脳内で補完してください。(必死)
愛は種を超えます☆

お祝いのメッセージ

田舎町のカフェより

From a cafe in a rural town.

神楽坂らせん
Rasen Kagurazaka


主にGoogle+というSNSで活動、
同SNSの『本が好き』コミュニティの管理人をしている他、
作家向けのツールの制作や神楽坂にて螺旋力の研究などを行う。
研究の成果を日々の暮らしに役立てつつ、
日本独立作家同盟発行の月刊群雛等で発表。
現在、エンタメ特化SFマガジン
「銃と宇宙・ガンズ&ユニバース」にて
『ちょっと上まで…』を連載中。



米田先生作家活動二十周年おめでとうございます!
田舎町のカフェより、お祝いのメッセージをお送りします。
先生のお名前に初めて触れたのは、あれは、たしか小学
生のころ、ハヤカワさんの文庫本の折り込み広告、新刊案内の
作家名でお見受けした記憶がかすかにあったりします。ただ、
家の方針でお子様身分では自由に本は買ってもらえません。生
活なりお勉強なりに必要な本以外では、母上様のお財布の口は
動くことは決してありませんでした。欲しかったのになー。
二人の親のもう片方(つまり父)はSFにかなり好意的で、
十代前半でこんなん読んじゃダメでしょ的な本もOKで、
周囲の反対をよそに平気で読ませてくれていました。火星
年代記とか、ふるーいSFばかりだったのですけれどね。
おかしなことに、SF本がごろごろある家だったのですが、
めったに日本のSF本は本棚にも床にもころがっていません
で、日本人SFに触れられるのは学校の図書室にひっそり
と入っていたグインサーガぐらい(でも全巻あった気が)とい
うお寒い状況だったのです。え? あれはファンタジー?
ご名答。でも、SFですよ。スーパー・ファンタジーです。
ざっつらいと。まあ、たいして違いはないのですけれども。
いや、ついつい二十周年と聞いて昔の話をひっぱりだしてし
まいました。関係ないですね。とにかく、おめでとうございま
す。いつも楽しく拝読しております。これからもがんばれー



神楽坂らせん

お祝いのメッセージ

アーくんのおうち

The House of Arkun.

竹島八百富
Yaotomi Takeshima


作家稼業、フリーライター、フリージャーナリスト、
映画ライターなど、
書くことを主体に生きています。
小中高生相手に学習の手ほどきも…(-_-メ)



 祝20周年おめでとうございます。

 なんだかんだ日々忙しくてバタバタしております。
 最近は、イベント等にも参加できずに、悶々としておりますが、また機会をつくってお会いできればいいですね。そのときは、宜しくお願いします。

 最近、9歳の娘がセルパブに興味を持ち始め、たった一人で絵本なぞを創りましたので、その冒頭部分を見てやってください。
 もし、も~し、この続きが気になれば、ポチッとしてあげてください。お祝いの言葉を贈る場で、宣伝をするという暴挙をお許しください!

 ただ、セルパブ文化を次世代につなげることで、もっとこの界隈も元気が出るかと思って、若い人を育てることも役目だと思い子どもたちにも声を掛けています。

 何はともあれ20周年おめでとうございます。


竹島八百富

いちごちゃん・著
『アーくんのおうち』より

Kindle

お祝いのイラスト

似顔絵

portrait

矢越幸奈
Yukina Yagoshi


1983年1月26日生まれ、埼玉県出身。
中学を卒業後、飲食店にて住み込みで働く。
その後、退職。
一人暮らしのフリーターをするも体調を崩す。
ドロップアウト組。
興味関心:言語学、民俗学、文化人類学、その他

お祝いのイラスト

シファとミスフィ

Shipha & Misfi

かわせひろし
Hiroshi Kawase


漫画家/小説家。
SF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』編集長。
ケッタ・ゴール!描いてました。
SF児童小説「宇宙犬ハッチー 銀河から来た友だち」
(第11回ジュニア冒険小説大賞受賞作)発売中。
柏出身レイソルサポーターで、科学好きの宇宙好き。

お祝いのイラスト

米田米穀店開店
二十周年記念
餅搗き大会に寄せて

Yoneta's 20th

折羽ル子
Oriharuko


折羽ル子 人呼んで暴走機関車。
あるときは小説を書き
あるときはまんがを描く。
だけど楽器は弾けない。
ナンセンスとバイオレンスの
極北の終着駅を目指して生きている。

お祝いのメッセージ

祝 作家生活20周年

Congratulations!

松本好信
Koushin Matsumoto


勤務していた会社が清算されて路頭に迷い、
紆余曲折を経てゲームシナリオライターとなるも、
満足に食べてはいけず引退。
再び社畜の道へ戻り、マイペースで小説を執筆中。

14歳でエレキベースを弾き始め、
社会人となってからは
バンド仲間と離れたこともありギターへ転向。
ほぼ独学のためアルペジオが致命的に下手。

ウクレレ始めました。


 米田淳一先生、作家生活20周年おめでとうございます。
 創作は楽しくもあり、同時につらくもあって常に挫折の危機に面しておりますが、それでも充実した内容の作品を長く発表し続けておられ、純粋に尊敬致します。
 私の初めての米田作品は『鉄研でいず!』シリーズでして、過去に鉄道マニアだった兄からの影響は大きく、さらに社会人となって間もなくは神奈川の厚木に住んでいたこともあり、作品の舞台はとても身近で、読んでいる最中は何度も心で「そうそう」と相槌を打ちました。幼い頃は単純に鉄道車両の外観・構造・性能に心を奪われ、大きくなってからは沿線の変わりゆく風景に魅せられるようになり、これは風光明媚な田舎だけではなく、雑多な市街地にても住民たちの生活を感じる楽しみが増え、話中にて風刺や鉄道をとりまく人々の心情も鋭利に描かれた点は強く惹かれました。
 今後も更なるご活躍を祈りつつ、地味ながらも応援させて頂きます。


松本好信

お祝いのメッセージ

ストーキング宣言

I'll stalking you.

くみた柑
Kan Kumita


個人で活動しています。現在の活動は電子書籍のみ。

書きたいものを書いているので、
それぞれ違った雰囲気の本になると思います。
まだ作品数は少ないですが、どうぞよろしくお願いいたします。

 米田さん! 作家デビュー20周年おめでとうございます!
 くみたがまだ生まれる前からすでに作家先生だったわけですね!
 さすがですスゴイです!
 ……すみません、少し鯖読みすぎましたね、産声はあげていました!

 米田さんとは、作家のNさんになんかよくわからないとある場所に召喚され、そこで初めて会話をかわしましたが、その時は本当に失礼ながら、プロの作家先生とは知らずに、このおバカ全開のキャラで普通に絡んでしまい、大変失礼いたしました……!
 途中で気づき、じわりじわりと「え、作家先生にこんな口調で気軽に話しかけている私って一体……」と青ざめていたことを思い出します。
 いつも米田さんの優しさに最大限甘えております。甘えすぎ~。

 普段から、ほんのりと変な態を醸し出している米田さんですが(褒め言葉)、 もうね、めちゃめちゃ優しいんですよ米田さん。かける言葉がほんとに優しい。
 なので私も、米田さんのような、立派な変な態になるべく、日々精進いたします!(そっち!?)
(でもね、自分にちょっと厳しすぎですよ! 時々心配になっちゃいますよ!
 くみたなんか、自分に甘々ですよ! 名前にも甘が入ってるくらいですからね! 自分にも優しくですよ! くみたと約束ですよ!)

 これからも、米田さんのご活躍を見守りつつ応援しつつスキルを奪いつつ隙あらばお力をお借りしつつストーキングしていきます!
( ヒドいッ! )


くみた柑

お祝いのメッセージ

作家と成人式

Writer's Adult Ceremony

ろす
lost_and_found

あざとい。電書ちゃんねる管理人。
訳書『EPUB 3とは何か?』
でんでんコンバーターにて
JEPA電子出版アワード2013大賞を受賞。
マイブームはカレー。



 米田淳一さん作家生活二十周年おめでとうございます。二十年といえば一人の人間が生まれてから成人するまでの歳月、さぞかしいろいろなことがあったかと思います。この間、奥さんとこんな話をしました。女の子が初潮を迎えると「お赤飯」でお祝いします。では男の子の精通は何でお祝いすればいいのでしょうか。しばらく議論した結果、「とろろご飯」がよいという見解で一致したことをご報告いたします。他にもいくつか候補が挙がりましたが、なんとなく白かったりネバネバしたりする食べ物という点では共通していました。どうしてでしょうね。とにかく我々はお赤飯やとろろご飯を食べたりしながら大人になってゆくわけです。

 僕は大人になるということについてしばしば考えます。人はどのようにして大人になるのでしょうか。周りから大人として扱われることによってでしょうか、自分が大人として振る舞うことによってでしょうか。あるいはその相互作用によってでしょうか。昔の社会では通過儀礼というものがあって、それを過ぎると周りから否応無しに大人扱いされたのだそうです。大人と子供の境目はくっきりとしていました。一方、今の世の中では大人と子供の境目は曖昧です。成人式なんてものもありますが形骸化して久しいです。強いて言えば社会人になることが一つの指標となっているような気がします。しかしこの指標は就職氷河期と重なった世代にはなかなか厳しいものがあります。それぞれの人がそれぞれのタイミングで大人になってゆけばいい。そのような多様性が認められるべきでしょう。また成人式の代わりになるものがあってほしいとも思います。先日行われた小説のハッカソンでは米田さんのチームから見事に受賞者が誕生しました。授賞式の様子を見ながら僕はそれがとても成人式的だと感じました。

 世間的な指標でいえば我々の世代は大人になる機会に恵まれなかったのかもしれませんが、小説を二十年も書き続けることは誰にでもできるものではない偉業です。これからも作品を生み出し続けるとともに、そこでしか得られなかった経験によって年若い誰かが大人になるための手助けをして頂きたいと勝手ながら望んでおります。作家二十周年のお祝いレシピを奥さんが考えてくれたのでお楽しみください。ではでは。


ろす

お祝いのメッセージ

レシピ

recipe


Shizuku

読み専



 作家生活20周年おめでとうございます。
 20年、決して平坦な道程ばかりでは無かった事と思います。
 東北人の粘り強さで勝ち得た結果では無いでしょうか。

 粘り強いと言えばとろろ芋。

 温かい御飯に、納豆にとろろ。
 刻みオクラに刻み海苔。生卵。
 お醤油を滴らせば丼の出来上がり。



 増し増しの粘り強さで30周年、40周年も御祝いさせて下さいませね!
 夢で出会った幻の御本、読める日を心待ちにしております。


しずく

お祝いの小説

女性型女性サイズ戦艦は
鉄道模型の夢を見るか

Do Shipha Dream of Model Train?

多千花香華子
Kakene Tachibana


もろもろ書きます。
処女作「恋の魔法陣くるくる回してあなたをげっちゅ!」
処女喪失作「魔獣公爵 強制蜜に濡れる憂姫」
配信中!



 柿沼は脂のたっぷり乗った腹をひと撫でして落ちつこうとした。
 これからとうとうファーストコンタクトだった。
 有線でつながれている頭部像はなんとか不気味の谷を一歩抜け出しており、人形っぽさは残っていたものの、それなりに美しさもあった。
 二十代なかばに見える女性の頭部であり、頭髪はなかったが眉毛は植毛されていた。
 眉毛とその動きは表情の様子をみるのに必要だったからである。
 この作り物の頭部に、あとスイッチひとつで人格が宿る。
 人格のほうも人間の手による作り物だった。
 女性型女性サイズ戦艦のコアとなるAIだという。
 わけがわからない。
 柿沼は伝えられたことをそのままには信じなかった。
 真実を隠すためのフェイクをつかまされているのだろうと考えていた。
 それでも一向に構わなかった。
 なにしろ払いがいい仕事なのだった。
 柿沼の専門は知覚、とりわけ嗅覚の第一人者を自任しており、実際、仕事の数は少ないが、巨額を与えられる大きなプロジェクトには幾度も参加している。
 それほどの知識と腕をもっているからこそ、こんな離島で世捨て人のように暮らしていても、ときおり仕事が舞い込んでくるのだった。
 女性型女性サイズ戦艦、けっこう。
 呼び方はなんでもいいが、かなり高度な技術を詰めこんだアンドロイドの嗅覚に関する世界情報の調整、それが柿沼に与えられた仕事だった。
 ただひとつ難があるとすれば、柿沼は相手の個性について危惧していた。
 人格を確立しているタイプのAI、それもおそらく女性。
 心弾むより、やや緊張してしまうのが柿沼だった。
 離婚を経てこの離島に引きこもって以来、若い女とはまともに話をしていない。
 小洒落たことのひとつでも言えれば、柿沼の自尊心も大いに満足するのだが、そううまくはいかないだろう。
 せめて、まともな会話ができれば良しとしたい。
 人格などないほうがリラックスして作業ができるものだが。
 しかし仕事だ。とても蹴ることなどできない報酬が待っている。
 柿沼は白衣の襟元を正し、眼鏡の位置を直してから、中空に浮かぶ光のコンソールを操作した。
 システムが起動する。
 眼鏡の投射レーザーを通して、柿沼のまわりに何十ものディスプレイが浮かんだ。
 頭部像の機構を維持するための冷却装置も働きはじめた。
 顔がうねるように次々と表情を変え、ぴたりと止まる。
 そして、それは目を開けた。
 眼球が動き、柿沼をとらえると、自然な口調で彼女は音声を発する。
「わたしはサイファ。あなたは?」
 柿沼は咳払いをしてから答えた。
「柿沼光一こういち。君の嗅覚を仕上げるように言われている」
「なるほど。予定通りの方ですね。無事にコンタクトできて安心しました」
 サイファの眼球が上下に動く。
「BMI二十八程度。肥満ですね。食事に気を使うべきでしょう」
「やめてくれよ。AIとはいえ、初対面の若い女にそんなこと言われるのは軽くショックだよ。君はすでに完璧のような気がする。僕が仕上げをする余地なんてあるかな?」
「あなたがわたしの嗅覚を仕上げるとは限りません。仕事はしていただきますが、あなたの仕事が採用されるかどうかはわからないのです」
「まったく人に慣れてるね。何歳になるんだ?」
「実年齢はとうぜん機密ですが、モデルタイプは二十代半ばとされています」
「ああ、そのとおりに思えるよ。じゃ、嗅覚を作動させてもらおうか」
 サイファは軽く目を閉じて、鼻をすんすん鳴らした。
 この頭部像には呼吸を真似るシステムもある。嗅覚を正確に調整するには必要なものだった。
 サイファは眉間にシワを寄せて、柿沼を睨む。
「失礼ですが、正直にいいますと、わたしには不快です。むさ苦しいとでも……」
「ごめんよ! 不快な独身おっさんの部屋で! 君をもっとファンタジーを詰めこんだモデルにしたいよ! 無理だろうから、お互いのために仕事を早めようね!」
「そうなりますかね。お互いのために」
 サイファはつんと澄ましてあごをあげた。

 柿沼は己自身をこの地位に導いた集中力を発揮して、精力的に作業を進めた。
 周囲に浮かぶディスプレイの数々へ注意深く視線を巡らせ、コンソールを操作し、サイファの表情を伺うのも忘れない。
 データ上の匂いだけでなく、柿沼はたまに液体の入った小瓶をサイファの鼻の下へ持っていった。
 そしてディスプレイのグラフと、サイファの表情を観察する。
 サイファは甘い匂い、柑橘系の匂いには快い反応を示し、焦げた匂い、排泄物、腐敗物の匂いには不快な顔をする。
 いい。
 標準的な人間の反応だった。
 柿沼とサイファはそのようなことを一日十五時間、数日のあいだ繰り返した。
 人間と人造物であるAIとはいえ、どちらも人格を持つ存在であり、二人はかなり打ち解けて談笑をするまでの間柄となっていた。
 そこには間違いなく、親しみというものが生まれていた。
 二人はあきらかにこの関係を楽しんでいたものだった。
 しかし、この関係性に長い時間は与えられていない。
 やがて柿沼の仕事にも終わりが見えてきた。
 寂しいような、ほっと安堵できるような、複雑な気分が柿沼の脳裏にあった。
 この関係はいずれ、何もなかったことと同様な調節をされるだろう。仕事だけが残ればいいのだった。
 柿沼はなにか、彼女との記念になるものが欲しいような気がしていたが、それも調子のいい幻想とばかりに、心の奥で押しつぶした。
 最終日の前日、サイファはまごつくように言った。
「わたしの嗅覚もずいぶん広がりを持ったものになりました。でも、いまだにデータにない匂いを感じます。この施設の奥から漂ってくるようなのですが。音響からして、広い部屋がありますね?」
 柿沼はハッとした顔になる。
「そうか、いまの時代に必要ないものだから完全に見落としていたよ。この家にあるものなのにな。おそらく有機溶剤の匂いだ。いまや希少なものだからね、データ化されていない。実物をお鼻にかけるよ」
 柿沼はいきなりサイファの頭像をわきに抱えこむ。
 サイファは目を見開いて文句を言おうとした。
「ちょ、ちょっと柿沼さん! わたしも人格を持った乙女なんですよ!」
 顔を赤らめる機能があったら、サイファの顔は紅潮していたかもしれない。
 柿沼は気にせず、コードを引きずってサイファの頭を運んでいく。
 奥の部屋へ入ると、柿沼はサイファの頭を真正面に構えて周囲が見えるようにした。
 サイファの目に、見慣れないものが映る。
 部屋一面に大昔の都市が構築されており、建物のあいだを縫うように古めかしいレールが敷かれ、その上に列車のミニチュアが置かれていた。
 サイファは難しい顔をして聞く。
「これは……シミュレーターですか? 大昔の公共輸送網でしょうか?」
「模型だよ。鉄道模型。シミュレーターっていう言い方も大間違いじゃないけど」
「これは何のためにあるのですか? なぜこんな匂いをさせているのです?」
「ま、この鉄道模型は僕の趣味だよ。仕事のために存在するわけじゃない。匂いは塗料や構成物から発生してるんだ。いまじゃ模型といえば緻密な立体プリンターで作るものだけど、これはさまざまなパーツを手作りで組み合わせてあるんだ」
「なぜ、そんなめんどうなことをするのです? 有機溶剤一般の知識を得ましたが、人体にとっては有毒なようですよ?」
「そ、人間に害がある。でも、昔はそういう素材を使って作ってたんだ。いまでも愛好家たちのハンドメイドで材料をやり取りしてる。そこまでの手間をかけるだけの……、なんていうか、ロマンがあるんだよ、鉄道模型ってやつにはさ……。趣味っていうものだから非効率な手間をかけて楽しむものなんだ」
「趣味についての知識は当然ありましたが、実際に見てみると、たいへん驚かされます。その、非効率さに……」
 自分の趣味はやはり理解されないだろうと考え、柿沼はため息をついた。
 だがサイファは続ける。
「心が動かされます。その非効率さと……、この美しさに……」
 その言葉に、今度は柿沼の心が動かされる番だった。
 鉄道模型は芸術だが、サイファもまた芸術の高みに達した存在といえる。
 柿沼は静かに目を閉じて、己の腕に抱えた人造の魂に敬意を払った。
「この美しさ、わかってくれるんだね……」
「はい。わたしはそれを感じます……」
「いまじゃ有機溶剤なんてまず使われていないけど、このデータも君に詰めこむよ。これは印だよ。僕が君の魂の片隅に触れていたっていう証として、ね……」
「使用頻度の少なそうなデータですね。諸方で仕上げを受けているわたしが統合されたとき、きっと奥深くへ埋もれてしまうでしょう」
「わかってる。僕の印はそんなところにあればいいんだ……」
 柿沼はサイファの頭部像を床へ置き、模型の列車が走るところを見せてやった。
 しばらく無言で二人の時間を過ごす。
 二人は言葉をかわすことなく、軽い音をたてて古風な町並みを走る列車を長いこと眺めていた。

 翌日、すべての調整が終わった。
 このあと、サイファの頭部は回収され、この施設にある記録はすべて入念に消去される。
 残るのは柿沼の記憶のみとなるはずだった。
「どんな意向なのか、君の今後を少し教えてもらえたよ。せっかくいま現在バランスのとれた人格を持っているっていうのに、君の人格は人間の子供時代から新たに再構成されるそうだ。もったいない。もしかしたらボディに合わせるためかな。悲しいよ、君とはもう会うことはないだろう」
 サイファは短く答えただけだった。
「まあ……」
「動揺もしないか……。流石だね」
「わたしの中にはあなたが調整してくれた嗅覚が残ります。お別れ気分はとくにありません」
 柿沼は短く笑った。
「フフッ……。女性型女性サイズ戦艦か……。そんなものが完成すれば、この地球上のどこにいようと君のニュースが入るだろう。僕のほうからは君を眺めていられる」
「では、わたしを見かけたらお手紙でもください」
「いいよ、機密漏洩になるから事実は書けないけど、一ファンとして声援を送っておくよ」
 サイファも短く笑った。
「フフッ……、変わったおもしろい方でしたね、柿沼さんも」
「君のことは忘れないよ。記念写真も撮れないけどね」

 予定どおりサイファは回収され、柿沼の元からすべての記録も消えた。

 それから数年後、完成された女性型女性サイズ戦艦の一体は趣味として、鉄道に関わるものごとに大きな関心を示したという……。


お祝いのアニメ企画書

ヨネデンキューブ

YONEDEN CUBE

にぽっくめいきんぐ
Nipockmaking


嫁曰く「常識のある変な人」。
息を吸いながらもののけ姫が歌えます。

【主題歌】



 回そうよ ヨネデンキューブ
 日本の朝に楽する奇跡

 はしょろうよ ヨネデンキューブ
 目的駅と異なる駅を

 日本はちっさいオルタニア
 そうだ今朝から初出社


【Aパート】

「ヤバイ 遅刻のピンチ!」
 そんな恵美えみからのLINEで、僕は目覚めた。
 時刻はもう、とっくに家を出てなきゃいけない時間。
 なんて返して良いかもわからないほど慌てた僕は、マジックワードの「マジ卍」とLINEで送り返した。

 大学の同期で僕の彼女でもある恵美。小柄で血色の良い、きびきびと動くタイプの子だ。彼女と同じ会社に入社できたのは良かったけれど、2人揃って寝坊して、初の出社が大ピンチ……なんて、本当にシャレにならない。
 慌てて鞄をひっつかみ、ネクタイを結ぶのももどかしく、駅へとダッシュした。
 予定していた部屋の片付けとかは、帰ってきてからやろう。

 駅のホームで、はあはあと切れる息を整える。
 恵美とLINEで連絡。彼女はまだ家を出ていないらしい。化粧やら髪のセットやら、女性は準備に時間がかかるのだろう。

(僕ですら、入社式に間に合うか、微妙な時間なのに……)

 彼女の家は横浜で、池袋にある会社へは、僕よりも遠い。先に到着するはずの僕は、頭の中で、遅刻する彼女をフォローするための、気の利いた言い訳を考えていた。
 それにしても、電車が時刻通りに来ない。朝のラッシュで遅れているのか。これでは僕すらも、大幅に遅刻しかねない展開。
 ぷあん。
 警笛を1つ鳴らして電車がやってきた。中身の詰まった重そうな車体を、荒いブレーキをかけて停止させた。
 僕が乗り込むと、案の定、電車はぎゅうぎゅうだった。
 スピーカーから、男性車掌さんの車内アナウンス。
『西武池袋線は、車内混雑により、10分ほど遅れて運行しています。お急ぎの所、誠に申し訳ございません』

 おろしたての背広はヨレヨレになっているだろう。隣のおっちゃんの変な臭いの息が顔に当たる。これか。これが日本の、地獄の通勤ラッシュか。

(会社ごとに、出社時間をずらしてくれればいいのに!)

 でも僕が入社した会社、『タカダオルタナティブ』は、通常通りの朝9時が出社時刻なのだ。
 それにしても……だめだ。こんなに断続的に、何度も電車が止まるようでは。

(しかたない。アレを使うか)

 僕は、混雑の中でもなんとか自由になっている片手で、鞄の中から強引に、ルービックキューブみたいな、角ばったプラスティックの物体をを取り出した。

(はあああああああ!)

 大地が、気の力でミシミシと音を立てそうな程に集中して、僕は、会社から支給されたそのキューブを操作した。


【CM】


 タカダの電車で、世界を往こう!
 精巧なモデリング!
 臨場感溢れるサウンド!
 ビギナーからベテランまで大満足!
 タカダの電車プラモデル!

【Bパート】

「はあああああああ!」
 大地が、気の力でミシミシと音を立てそうな程に集中して、僕は、そのキューブを操作し続ける。
 隣のおっちゃんが、「うるせえ! 満員なのに、ルービックキューブで遊んでんじゃねーぞ!」と文句を言ってくる。
 分かってるけど、背に腹は変えられない。
 あと、そのおっちゃんはそもそも、新聞をバサバサと音を立て、大きく広げて読んでいた。そっちの方が邪魔だよ。スマホのニュースアプリとかにしなよ。

 ルービックキューブという玩具がある。6面体の各面が、3×3の9つのブロックに分割されていて、そのブロックをカシャカシャと回転させることで、6面全ての色を揃えるという、知的パズルだ。

 それを彷彿とさせる新しいキューブを、僕と恵美とが今日からお世話になる、タカダオルタナティブ株式会社が考案したんだ。

 このタカダオルタナティブキューブ、略称『タカダキューブ』には不思議な力がある。

 色違いな6面のうちの、オレンジの面に配置された9つのブロックに、僕は西武池袋線の主要な駅を登録してある。ひばりが丘駅、大泉学園駅、石神井公園駅、練馬駅、池袋駅などだ。

 つまり、僕が手にするこのタカダキューブの、このオレンジ色の面は、西武池袋「面」。西武池袋の線、つまり1次元を、2次元の面へと拡張して割り当ててあった。

 現在地を示す光点マーカーは、石神井公園と練馬の間にある、中村橋駅付近を示していた。

 カシャリ、カシャリ。
 僕は、そのキューブを、スマホのスワイプ動作のように、親指ではじく。
 ブロックを、同じオレンジ色の面の中で、スライドさせ、場所を移動させる。
 まるで、大昔に流行った、チクタクバンバンというゲームのように。
 あるいは、1から15まで並んだプレートをスライドさせて、数字の順番通りに並べかえるゲームのように。

 車掌さんのアナウンス内容が切り替わる。
『次はー、池袋ー、池袋ー。終点、池袋ですー。どなた様もお忘れ物の無いように、ご注意下さいー』

 そう。タカダキューブのブロック移動に対応するように、「現実の」路線接続が変化し、石神井公園駅の次の停車駅が、練馬駅ではなく池袋駅になったのだ。

 キューブが備えるブロックを操作することによって、登録済みの駅同士の相互配置を変え、電車を目的駅へとショートカットさせる。それが、このタカダキューブの力だった。

 ちなみに、まだまだ実験中の非売品だ。
 新入社員の僕が持っているのには、ちょっとした理由もあった。

「あれ? 練馬駅、止まらねえの?」
「ヤッベー! 降り過ごした!」
「有楽町線直通の新木場行きに、乗り換えるつもりだったのに!」

 ガヤガヤと騒ぐ他の乗客。
 みんなごめん。こうでもしないと、定時に間に合わないんだ。

 電車の窓からは、低層の住宅ではなく、線路と高層ビルが見えてきた。東向きに走っていた電車が左カーブで北へ。そしてもうさばき、西武線池袋駅のホーム。

(よし、これならギリギリ間に合うぞ! ドアが開いたらダッシュだ!)

 そう思った時だった。

 キキー。
 停車時の急減速。
 この電車の運転士さんは、ブレーキ操作が下手なようだった。電車でGO! ってゲームなら、減点がひどいやつだ。

「おっと」
 新聞を読んでた隣のおっちゃんが、僕の方に倒れこんできた。タカダキューブを持った僕の手にぶつかる。
 その拍子に、タカダキューブは、チクタクバンバンではなく、ルービックキューブのようにカシャンと回転した。
 東急東横線を示す、赤色のブロックが、隣に来るように……。

(しまった……)
 そしてその直後。タカダキューブの、「配置変更受付タイム」が終了し、キューブにロックがかかって、動かせなくなってしまった。

 駅から、会社最寄りの池袋駅に着くまでは、相当かかった。
 文句なしの大遅刻。
「タカダキューブの操作ミス」を理由に、鉄道会社が電車の遅延証明書を出してくれるわけもなく、お叱りを覚悟して、僕は会社に汗だくで到着した。

「遅かったね」
 入社式もとっくに終わった後の時間。
 レディーススーツ姿の恵美が、なぜかニコニコしながら出迎えてくれた。化粧の乗りも良く、ミディアムの長さの黒髪も、しっかり整えられていた。

「お。やっと来たねえ、うはは」
「遅かったなー、ははは」
 先輩方も、なぜか上機嫌だ。

「本当に申し訳ありません」
 と頭を下げつつ、不思議に思う。なんで怒られないんだろう?

「高田さんから、事情は聞いてるよ。『沿線またぎ許可』がオンになった設定で、タカダキューブを支給しちゃってたんだって? ごめんなぁ」

 僕はびっくりして、タカダキューブの開発者である、 恵美の顔を見る。

「ごめんね」
 と、恵美も言った。
 悔しいけど、かわいい笑顔だった。

「う、うん……。恵美……いや、高田さんはどのくらい遅れたの?」
 と聞いたら、恵美はきょとんとした表情になって、言った。
「私は間に合ったよ?」

「え!? そんなわけないよ!」

 だって恵美は、僕より会社に遠い、横浜に住んでいるし。家を出るのが僕より遅くなったのは、LINEで知っていたし。
 それに恵美は、パズルが大の苦手だったはずだ。だから「私の代わりに」と、実験用のタカダキューブを、僕が使っているのに……。

 そんな思いが、僕の顔に出ていたのだろうか? 恵美は言った。
「ルービックキューブと同じで、ブロック自体をバラして、好きなようにはめ込めばいいじゃない」

「ずっこい! 恵美ずっこい!」
 僕が言ったら、恵美は、いたずらっ子のような笑顔を見せた。切れ長の目が少し細くなる。八重歯が覗く。

 そうだ。僕はこの笑顔にやられたんだった。

 そんな恵美を、なんだか面白くなさそうにジッと見つめる、恵美の後ろに居るイケメン。
 ほっそりイケメンな田村先輩のその視線に、僕は少し、嫌な予感がした……。

〈続く〉

【エンディング】


 乗りねぇ電車に 好きさ蘊蓄インテリ
 君の知識隠さないで

 モデリングしたくて セルパブしたくて
 いつも君はドキドキしてる
 
 凹んだふりして止まってちゃ ホントのテツ道行けないよ

 もっと気にせずに
 もっと君らしく
 書いてみれる?

 プラスティックあげる用(あげる用)
 プラスティックあげる用(モデル用)

 今後も小説ホン読ませてくれたら

 プラスティックあげる用(遊ぶ用)
 プラスティックあげる用(作る用)

 節目20周年の君に
 遊びの詰

お祝いの小説

プリンドーム・プライマル

Pudding Dome, Primal

淡波亮作
Ryousaku Awanami


2012年末、Kindleストアにて
『壁色のパステル』(家族小説)でデビュー。
他に『さよなら、ロボット』(近未来SF)、
『孤独の王』(古代ファンタジー)と、
それぞれ異なるジャンルの小説を出版。
小説のほか、CG映像による予告編や
プロモーションのためのARコンテンツや
小説のイメージ音楽アルバムも同時進行にて制作。

※本作は多層次元宇宙での出来事を活写したものです。一般的な現実世界とは微妙なズレが生じていますので、そこはニヤッとお読みください。

「なんで9トゥ5なんて名前にしたんかなー、まるでお役所じゃん。ぜんぜんコンビニ感ないよ」
 男はかさかさ袋をぶら下げた右手を元気に振りながら、帰路を急いでいた。

《地震警報発令!》
 緊迫したアナウンスとともに、巨大なドーム内をけたたましいサイレンが鳴り響く。この世界が始まって以来最大の危機がいま、訪れようとしていた。

「たまにはね~」
 テーブルについた男はにんまり笑う。なんとも幸せそうな笑みである。
「甘いものも補給しないと、脳が寂ちがってるもん。今日も無駄なマクロ組まされたしなー」
 袋から透明プラスチックのスプーンを取り出し、ぱかっとフタを開ける男は、もちろん※田淳一その人である。
「あ、そうそう。自分ばっかじゃいかんよねえ。千秋ちあきー、かつお節食べまちゅか~?」
 ※田はスプーンをそのまま置き、プリンより甘ったるい声を出して愛猫にかつお節を与える。ドームに、つかの間の平穏が訪れる。

「空気が、ドームの外側へ漏出してる!」
 志羽シハが叫んだ。
「まさか、この世界の﹅﹅﹅﹅﹅外へ?」
 三栖妃ミスヒが確かめるように、ドームの外へ目を凝らそうとする。だが、分厚い卵乳白色ライトヨークのシールドで覆われた世界の内部からは、外界の様子を見ることはできない。少なくとも、まだドームの内外が別の次元に属している事実にだけは変わりがないようであった。
「でも、このままじゃ呼吸が! 私たちの世界が!」
 志羽はもう、半分パニックを起こしかけていた。
「落ち着くのよ、志羽! まだドームが破壊されるとか決まったわけじゃない。地震の影響でちょっと空気が漏れ出しただけかもしれないし。あの創造神が、私たちの大切な世界を簡単に滅ぼしてしまうと思って?」
「だって、三栖妃……」
 志羽は不安げな顔で三栖妃を見る。ようやく、振動は収まったようだ。
「ほら、静かになったじゃない。きっと大丈夫」
「でも、気温が上がってるわ」
「暖かい世界だって、いいものじゃないかな。きっと気に入るわ」
「そうかな」
「そうだって」

 ガクン──
 志羽の微笑みに三栖妃が安心したのもつかの間、再び世界が揺れた。今度の揺れは地面からではない。ドーム全体が大きく震えたのだ。
「ちょっとォ!」
「また? 今度はなに?」
 やはり、創造神は気まぐれなのか? まだ何が起こっているのかは分からないが、もしかしたらほんとうに、この世界を創ったことすら忘れてしまったのではないかと、不安げな顔の志羽を見つめながら三栖妃は考えていた。
 端的な事実を言えば、当然のごとく※田の頭の片隅にすら、この世界の存在は残ってはいなかった。この揺れにしても、単に愛猫とのひとときに満足し、テーブルに戻ってきただけだ。
 それにしても、ドームの引っ張られるような﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅揺れは収まる気配がない。

 ギー、ギー、ギーッ
 またもサイレンが鳴り、鬼気迫る声がドーム内を反響し、声が干渉し合う。
《第一隔第一壁隔壁崩壊壊! 間もな間もなくカラくカラメル崩壊が落下し第一はじめますますますま──》

 放送が何を言っているか判別できないことが、ドーム内の一般市民を恐慌状態に陥れていた。ドーム内部に点在する気泡球空間バブルームをつなぐパイプラインを、怯えた人々が逃げ惑う。それを安心させることも宥めることもできず混乱する志羽に、三栖妃が言う。
「私たちで止めるのよ」
「止めるって、何を?」
「ドームの天蓋を元に戻させるの。私たちで、創造神を止めるのよ!」
「そんなことムリ──」
 志羽の言葉を聞かずに飛び立つ三栖妃の翼はもう、凄まじい風切り音を立ててパイプラインを抜け、カラメルの層へ飛び込もうとしていた。
「待って!」
 志羽が後に続き、考える。生まれて初めて9トゥ5の冷蔵世界から外界へ持ち出されたということだけではない。気温はもう、十五度を超えているのだ。確かにこのままでは、要冷蔵のドーム世界は持ちこたえられないのではないかと。
 二人の美しい戦士が、カラメルの分厚い層を突き破ってドームの外殻に立った。この世界が始まって以来、初めての出来事だったし、まさかこのようなことが起こるとは、想像すらできなかった。もちろん、偉大なる創造神自身にも予測不能であったに違いない。
 志羽は不安定な足下をしきりに気にする。今まで生きてきた世界、唯一の世界だと信じてきたこのプリンドーム・プライマルが、こんなぶよぶよとした頼りない外殻に包まれていたのかという思いが、更なる不安を掻き立てる。ドーム天蓋を取り去られたこの世界は、皮を剥がれた丸裸のクリーチャーのように無防備で無様な姿を晒しているのだ。三栖妃も、同じ気持ちだった。完璧な創造神が創りたもうた完璧な世界であったはずなのに、それはあまりにも甘い幻想でしかなかったのだ。

 その創造神は、最初の一口をじっくりと舌の上で転がしながら、二人の気持ちをよそに満面の笑みを浮かべている。
「創造神よ!」
 ありったけの声で、三栖妃が叫ぶ。志羽も声を合わせる。
「創造神よ、お願い! このままでは、あなたが創ってくれた私たちの世界が崩壊してしまうの。どうか世界の天蓋を閉じて、あの冷たい空間に戻して!」
 どんなに声を張り上げても、しょせんはプリンの上にたたずむ極小世界の住人ハイパー・マイクロイドに過ぎない。それに、である。そもそもこの気まぐれな神が、酔った勢いに任せて創造したプリンドーム・プライマルなる異空間世界を記憶しているかどうかも定かではないのだ。それにそれに、せっかく買ってきたプリンを店の棚に戻すなど、どこの愚か者が思いつくだろうか!
 それでも三栖妃は叫び続ける。記憶している限り、自分たちはもう十年以上もこの世界に生きているのだ。それを、ほんの気まぐれで潰されてしまうことなどあり得るはずがないではないか!
 だがそれも三栖妃の思い込みに過ぎなかった。象の時間ネズミの時間ゴツゴウノヨイ理論で言えば、ハイパー・マイクロイドにとっての十年は※田の一日でしかない。最近、リバイバル執筆を開始したSFシリーズの筆がスムーズに進むことに気を良くして酔っ払った昨晩のこと、コンビニプリンを目にして呟いたダジャレこそが、この世界の始まりなのだ。この世界が始まってから、まだ一日と経過してはいないのだ。
 ※田は二人の魂の叫びを無視して──無論、単に聴こえていないだけなのだが──スプーンをつまむ。そしてまた嬉しそうに口角を上げる。
 今まさに創造神のスプーンが、プリンドームの外殻にずぶりと突き刺さる!
 志羽は迫り来るスプーンのあまりの大きさに怯み、すんでのところで三栖妃に腕を引っ張られて救われた。
──ちょっと待った。
 読者の中にはそう思われる向きもあるだろうが、この世界に瑕疵バグはない。象の時間ネズミの時間理論で考えれば、迫り来るスプーンは宙に静止しているようにしか見えないはずだとか、スプーンの先がプリンにめり込んで巨大なチャンクをすくい取るまでには数十分単位の時間がかかるはずだろう、とかいう考えは大きな誤りだ。※田の精神隔壁サイコウォールが、容易に周囲と融け合うことを特徴の一つとしていることは周知の事実であろう。創造神自らが創造物たるプリンドーム・プライマルへの接触遭遇﹅﹅﹅﹅を行なっているという異常事態を鑑みるに、この二つの異なる時空間は溶融して境界線を失い、その時間軸もまた完全にシンクロナイズしつつあるというのが、いまこの場所で起こっている事象なのだから。

「来るわ!」
 創造神のスプーンからこぼれ落ちたカラメルが、琥珀色の巨大な水球となって頭上から襲い来る。三栖妃が志羽の手を握ったまま飛び立つ。二人は並び、一直線に創造神の眼球を目指して飛ぶ。
 ガツン!
 しかし、二人は見えない壁に遮られて撥ね飛ばされる。
「ヒドイっ!」
 志羽が思わず叫ぶ。
「おかしいわね、隔壁は破壊されたはずなのに」
 落下しながら、三栖妃は電子頭脳をフル回転させる。
 ぽむ!
 カラメルの薄膜が残るプリンの表面に、二人の肩がめり込んだ。ゆっくりと立ち上がり、三栖妃がつぶやく。
「そうか……創造神にとって、ここは忘れ去られた次元世界にすぎないんだわ。こちら側からあちら側へアプローチすることは、決して許されないんだ」
「三栖妃……」
 志羽が肘を引っ張る。スプーンが迫る。間一髪で避け、巨大なチャンクが上空へ運ばれてゆくのを二人は唖然とした表情で見守るしかない。

「んー、んマイっ」
 満足げな声が天から響き、二人の全身をビリビリと振動させる。留まるところを知らぬ創造神の波状攻撃は、次々と巨大なプリンチャンクを運び去っている。二人はただ、逃げ回る。もう、世界の住人たちがどうなっているのかを知ることもできない。自分たちの安全を確保するだけで精一杯なのだ。

「警報が鳴らないわ」
 志羽が左右を見回す。
「もう、システムが機能してないのね」
 三栖妃がぶっきらぼうに言い放つ。
「そんな……」
 薄まったカラメルが溜まる地面にしゃがみ込み、志羽は呆然としている。泣きたいのか叫びだしたいのか、自分でも分からない。三栖妃は落ち着いた表情で、あちこちに残ったプリンの欠片を見ている。もうこれでは、住人たちのバブルームはいくらも残ってはいないだろう。逃げた人々はいったいどこへ行ったのだろうか。三栖妃は考える。そして背丈以上の山が数えるほどに減ったとき、不意に結論が訪れた。

 三栖妃は志羽の手を強引に引っ張って立ち上がらせ、呆け顔の志羽を無理やり走らせ、飛んだ。行く手には、残された山の中で最も高いプリンチャンクがある。その山へ、三栖妃と志羽の羽が立てるものとは違う風切り音が迫る。上空から、透明なスプーンが迫っているのだ!
「ええっ?」
 鋭い音に振り向いた志羽が目を剥く。
「どうして!」
「これでい──」
 三栖妃の言葉が終わらぬうちに、二人の体はプリンの山に吸い込まれ、そしてその山は、創造神の手にすくい取られた。空間ともいえない小さな気泡球の隅に体を滑り込ませた三栖妃は、志羽の手を両手で握りしめる。
「これで、サヨナラじゃないんだよ」
「え?」
 志羽の顔にはクエスチョンマークが浮いている。

「んマイなあー、こんなプリン久し振りだよー。ほんと、涙が出ちゃう」
 ※田はいつの間にか膝元に乗っている千秋を撫でながら、幸せに浸っている。

「志羽、愛してるよ」
 三栖妃が志羽を力いっぱい抱きしめる。気泡球が弾け割れ、周囲が暗くなる。二人を包むプリンチャンクが、とうとう創造神の口中に投げ入れられたのだ。目茶苦茶に回転しながらも、三栖妃は志羽の体を離さない。志羽も、懸命に三栖妃を抱きしめる。
「さよなら、私たちの世界」
 三栖妃が耳元でつぶやく。
「サヨナラじゃないって──」
 志羽はグズグズと泣いている。まるで世界の終わりにでも立ち会っているように。
「志羽に言ったんじゃないから。泣くのはおやめよ、志羽らしくない。別れを告げたのはプリンドーム・プライマル、すなわち旧世界になんだから」
「旧世界?」
「そう、そして新しい世界よこんにちは! 今日から私たちは、我々の創造神の中で生きるの」
「どうゆうこと? もう、全然分からないよ!」
「いい? 落ち着いて、志羽。周りをよく見るの。私たち、死んでなんかいないでしょう?」
「う、うん」
 手の甲で拭った涙が光る。
「え、光?」
 暗闇だと思っていた場所に、光が差していた。三栖妃が、志羽が、顔を上げる。
「飛ぶよ、志羽」
「うん!」
 二人は光の筋を追い、上昇する。適度な湿り気が心地良い。ああ、この暖かさはプリンドームでは得られなかったものだと、三栖妃はゆっくりと込み上げる幸福を噛みしめた。

 ザバァ!
 二人の体が水面に飛び出した。煌めく飛沫がまぶしい。二人は創造神の流した涙の表面をサーファーのごとく滑り、喜びに溢れて嬌声を上げる。これこそが、新しい人生なのだ。空を踊り、トリプルループを決めると※田の引力圏に引き戻され、毛穴をくぐって体内に戻る。
 今、二人は満たされていた。創造神の体内では、至るところで彼の創った者たちに出逢うことができる。創造神の寿命は想像の及ばぬほどに長く、この世界は光と笑いと美に溢れ、幸せに満ち満ちているのだ。
──もちろん、いろいろとヒドイ話もあるにはあるのだが、それはまた別の話、ということで、ね。


お祝いのMMORPG小説

オルタニア国物語

The Chronicles of Altania

波野發作
hassac naminov


黒幕



「ひぃぃぃぃぃぃ」

〈密林のダンジョン〉の奥深くで狂戦士バーサーカーの悲鳴がこだまする。襲ってきたはずのアンデッドが思わず身じろいだ。だが、奥から押し寄せる他のアンデッドに押し出されるように、さらに錆びた刀剣を振り回しながら向かってきた。
「押されているな。ヤマDはヨネTの援護をお願い」
「わかりましたん」
 魔法戦士マジックウォーリアのヤマDは、召喚師サモナーアワナミーの指示で狂戦士バーサーカーの元へ走った。高速詠唱によるライトニングボルトで牽制しつつ、魔剣キアヌでアンデッドの集団を薙ぎ払う。こともなげに高度なことをやってのけるのが憎い。コクウラの街に夫と子どもたちを残して、家計を助けるためにダンジョンに潜っているが、単にダンジョンに潜るのが好きなだけかもしれない。
 アワナミーが召喚したウォーキングウォールの陰で、魔術師ウィザードナムアヒーが魔法陣の設営を終えた。戦闘開始から坦々と書き続けてきっかり10ターン目で完成させた。
「できましたけど」
「発動までは?」
「3ターンで」
「了解。ナミノフは?」
「わかりません」
「また勝手になんか仕込んでいるな」
 アワナミーは宝珠を発動し、遠隔想念メッセンジャーを送る。雑用係ジョーカーナミノフが応答する。
『落盤を仕込み中ですが、何か?』
「ナムアヒーの準備が整った」
『あ、はーい』
「そっちは?」
『5ターンでOK』
「もう1ターン早くなんない?」
『んー。威力半減でよければ』
「じゃあそれで」
『了解』

 ダンジョン攻略に編成されたパーティ〈オルタニアファミリー〉が〈密林のダンジョン〉に挑んでから3日。ようやく財宝の眠る〈首領ボスの墓〉まで来たのだが、ほいほいと先行したヨネTがトラップを踏み抜き、大量のアンデッドが湧き出した。こいつらを全滅させれば〈首領ボス〉が現れる仕掛けになっている。できればナムアヒーの魔法陣と、ナミノフの仕込みを同時に発動させ、一気に始末をつけたかったのだが、今となっては「アンデッドを全滅させない」ようにして一旦撤退するしかなかった。
「いったんてったい……ププ」
『何か言った?』
「いやなんでも。くれぐれも全滅はさせないでよ」
『2、3体残せばいいんだろう。大丈夫だ。計算してある』
「いま〈首領ボス〉とやりあったら全滅するから」
『わかっている。それより前衛の動きが止まっているぞ』
「え? あ、まずいな」
 アワナミーが前方を見ると、ヨネTが動きをとめ、アンデッドが取り囲むようにして攻撃を加えていた。おそらく〈自暴自棄セルフネグレクト〉が発動しているのだろう。こうなると2ターンは動けない。ステータスを確認すると、HP欄が「∞」になっている。〈死亡ロスト〉の心配はないが、このまま動けないと退避が間に合わずナムアヒーの広域魔法リンナイに巻き込まれてしまう。それでも死ぬことはないだろうが、装備はボロボロになり、修繕に無駄なゴールドを費やすことになる。ヨネTのエリクサー・アーマーはレアアイテムだから特殊な装具屋でないと直せない。そしてそこは仕立て代が異常に高い。下手したら赤字だ。あかん。
「ヤマDさん、どこ?」
「こっち」
「ヨネTの援護は?」
「無理」
「なんで」
「えっとね」
「なに」
「〈首領ボス〉起きてる」
「マジか」
 それは想定外だ。魔法防具などどうでもいい。下手したら全滅だ。
『おいおい、〈サバイバーモード〉のはずじゃないのかよ』
 ナミノフが宝珠越しに抗議の声を上げる。〈サバイバーモード〉ならアンデッドが全滅するまで動かないし、魔法と〈落盤〉のダメージでHPを1/3程度に削ることができる。楽勝シナリオのはずだった。

「なんでか今日は〈イレイサーモード〉だな」
「ええと魔法どうします?」
「ああ、〈リンナイ〉じゃ効果は薄いな」
「〈プロパン〉ならプラス5ターンで発動できますけど」
「間に合わないかな」
 アンデッド用に準備した中程度炎魔法では、イレイサーモードの〈首領ボス〉・オニオンオーブは倒せない。高度高火力魔法に切り替える必要があるが、5ターンを耐え抜くのは難しそうだ。そもそもナムアヒーがタゲられたら一巻の終わりである。
「うわわわわわ」
ヤマDが叫びながらウォーキングウォールの裏に逃げ込んできた。
「もう無理無理」
「お疲れ。どう?」
「えっと、黄色いよ」
「ヤバいな。かなり」
 土埃の奥かにうっすらと金色に輝く羊頭の怪物が姿を見せた。
『おおう。デケえな。あれ?』
「どうしたの?」
『ああ、マズいなコリャ。〈両手に武器持ちジョニー〉だ』
「武器ありだって?」
『ああ。ヤバいのが両手に』
 土煙が収まるにつれ、ボスキャラの両手にはそれぞれ輝く幅広剣ブロードソードが見えてきた。白銀の剣が〈オリハルコン〉、灼銅の剣が〈クミタカン〉である。ともにSTR256、AP256。紛れもなくこの世界で最強クラスの武装だ。
「こりゃ両手同時攻撃の発動でここ一帯がクレーターになりますね」
『嫌だなー』
「どうすんの? 撤退?」
「んー。それも無理かな?」
「なんで」
「もうすでにイグジット何度も試してる」
「あー」
 強制退去イグジットが効かないということは、レベルSS以上の結界付きレアイベントだということだ。今となっては彼らの選択肢は2つ。ボスを倒すか、全滅するかだ。
『ああ、ここで皆さんにお知らせがある』
 宝珠からナミノフの声が聴こえる。
「お知らせ?」
『そうだ』
「なに?」
『落盤のお時間です』
 轟音とともにレベル35の天井を形作る岩盤が崩落を開始した。悲鳴を上げるまでもなく、パーティ御一行はきれいに二次元化を果たした。

     ◇

 美しい音色が聞こえる。ここは……覚えがある。ここは教会だ。ウエストイーストキャピタル教会。また来てしまったのか。アワナミーはすぐに貯金の心配をした。全員の復活と回復、装備の買い直し。気が遠くなる。
 ロスト神父が、シスタードロップとともに現れる。
「おお、死んでしまうとは情けない」
「うるさいわ」
「お支払は現金か。それともクレジットカードか。今月から仮想通貨の支払いにも対応したぞ」
「仮想通貨の口座がないわい。とりあえず現金で」
「まいどあり。神のお目こぼしのあらんことを」
 神父がコマンドを走らせると、脳天気な音楽と共に他のメンバーも生き返った。
「ちょっとー」
「なんで落盤したのですか?」
「あ、いや……解除を忘れてたんだよね。すまんすまん」
 ヤマDとナムアヒーに詰め寄られて、ナミノフはバルコニーに逃げ出した。西に見える遠くの山の麓の杉の森に先刻のダンジョンがあるのだが……。
「ん?……げぇ!」
「どうしました? ……なに?」
「ちょっとマズくない?」
 支払いを済ませたアワナミーがバルコニーに出た頃には、その全貌が見えるぐらいにはなっていた。
 おそらく十倍には膨れ上がったその体躯。密林の大ボス〈オニオンオーブ〉は羊頭双剣の魔物と化して、地上を蹂躙しながら城下を目指していた。
「なんであんなことに。首都オワタ」
「カナダみたいに言うな」
「どうすんの? 逃げるの? 戦うの? コマンド?」
「戦うにしても装備がないな」
 なにせ生き返ったばかりだ。全員貫頭衣の下は素っ裸である。これから銀行バンクハウスまで走っても間に合うかどうか。
「ところで」
「ん?」
「ヨネTは?」
「あー」
「ここに来てないってことは、今回も死んでないんじゃ」
「あれってチートなのか?」
「どうかな? あんまチートとかするタイプじゃなそうだけど」
「元姫の呪い?」
「呪いなのか祝福なのか知らんが、とにかく生きてるのは間違いないな」
 パーティのステータスを開けてみるが、ヨネTのHPはいつも通りゼロギリギリ前で1ゲージ残して踏みとどまっている。ある意味アンデッドなのではないかと思う。
「ねえ、あれってさ」
 遠目の魔法ヴィクセンで魔物を観察していたヤマDが言った。
「〈融合生物コラボレーション〉じゃない?」
「え? コラボレーション?」
 ナムアヒーも遠視魔法ミードを簡易魔法陣で発動させる。ナミノフは懐から「ケンコーの筒」を取り出して覗き込んだ。これはエンチャント装備なので死んでも手元に残る。
「あー。ていうか、あれはエリクサー・アーマーだな。ヨネTは取り込まれたのかも」
「はぁ?」
「さてここで問題です。バーサーク状態の双剣のオニオンオーブがエリクサー・アーマー装備だと、得られる経験値とゴールドはいくらになる?」
「わからん。いっぱい?」
「いっぱいでしょうねえ」
「欲しいね」
「殺るか?」
「できるかどうか、ですけど」
「見逃すのはもったいないよね」
「よし、行こう!」

オルタニアファミリー彼らの戦いはまだはじまったばかりだ!

     ◇

「それでどうなったの?」
「うむ。その後彼らはみな取り込まれて、あれになったのじゃよ」
 老女が上を指すと、子どもたちは神像を見上げた。街にそびえる巨大な黒曜石の像。古代より伝わる混沌神〈ナンカ〉だ。ヒドいっ!


完?

【特別付録】キャラ紹介

ヨネT
クラス  狂戦士:バーサーカー
主な装備 全回復の鎧(エリクサーアーマー)
奥技   フィフティ・サウザンド・バイ・デイ(超高速連撃)
元王宮騎士だったが野に下りて冒険者となる。かつて仕えた姫を探して密林のジャングルに潜っているところでオルタニア・ファミリーに加わった。防御力は低いが、回復力が高く、HPが無限大になっている。ナチュラル・チート。

ナムアヒー
クラス  魔術師:ウィザード
主な装備 炎の石版(ファイヤー・タブレット)
奥技   ダイダロスアタック(D‐DOS攻撃)
マイペースでじっくりと正確な魔法陣を書き上げるタイプの魔法使い。繰り出される攻撃魔法は強力無比。治癒系、補助系の魔法はほとんど使えない。代々魔術師の家系で、叔父と妹も魔術師としてダンジョン活動をしている。

ヤマD
クラス  魔法戦士:マジックウォーリア
主な装備 魔剣キアヌ
奥技   ウィッチ・スマイル(魔女の微笑)
西の王都に夫と三人の子どもを残して密林のダンジョンに挑みつづける主婦冒険者。かつてはジャングル四天王として恐れられていたほどの実力者。さまざまなクラスを渡りあるいてきたので、スキルの種類がハンパない。

アワナミー
クラス  召喚師:サモナー
主な装備 造形の籠手(ブレンダー・ガントレット)
奥技   ゴッドボイス(神のごとし超音波)
戦士としての確かな実力がありながら、召喚士として修行を続けてダンジョン活動に勤しむイケメン冒険者。見た目よりだいぶ年配らしいが、おそらくエルフの血が混ざっているのだろう。オルタニアファミリーの精神的主柱。

ナミノフ
クラス  雑用係:ジョーカー
主な装備 林檎の短刀(クラウド・アンド・パスポート)
奥技   アイアン・フェイス(鉄面皮)
アサシン、シーフ、スカウト、ニンジャ、アーチャーの五つのクラスをマスターまで鍛え上げると隠しクラス「ジョーカー」になる。戦闘よりも隠密行動からの破壊工作が得意。攻撃力は高くないが、防御力が異常に高い。

お祝いの小説

とても壊れやすいもの

Really fragile.

山田佳江
Yoshie Yamada


1974年生まれ。福岡県北九州市出身。
超文系サイトテキスポを経て、ブクログのパブー、ウッピー、
DIGクリエイティブアワードなどに小説を掲載する。
無計画書房発起人。てきすとぽい制作チームメンバー。



 物心つく、という言葉があるけれど、私はずっと物心がつかないままにここまで生きてきたのだと思う。世界と私の境界は曖昧で、私と人々のあいだには大きな隔たりがあった。だけれど、常に私を包み込んでいるなんらかを感じていた。それは、神と呼ぶにはあまりにありきたりで、でもそうとしか呼べないものの存在。

 幼い頃の記憶はあまりないけれど、一つだけはっきりと覚えていることがある。私は見知らぬマンションのエントランスにいた。友達を尋ねてきたのか、たまたま迷子になってそこにたどり着いたのか、そこまで歩いてきた記憶はふんわりとして掴みどころがない。
 自分が自分であること、自分の足で歩いていること、自分の頭で物事を思考していること、そういった全てに確証もなく、ただ漠然と、ガラスの扉を押して建物の中に入る。エレベーター横の掲示板に、ポスターが貼ってあった。漢字でなにかが記してあり、私には読めないけれど、その下に描かれた赤い大きな矢印が私を誘導する。なにかを期待していたわけじゃない。好奇心ですらない。ただ矢印に機械的に反応し、私はエントランスを矢印の方向に進む。
 マンションの一階の、今思い出せばあれは集会所のような部屋だったのだろう。扉は開いていた。矢印は私に「この部屋に入れ」と告げていた。機械が擦れるような音と、鼻につく独特の匂い。ぼんやりとそれらを感じながら、私は一步部屋に入る。

「あっ……!」
 その瞬間、急に視界が開けた。私は巨大ななにかになり、目線の高さより少し下にある町並みを見下ろしていた。町にはビルがあり、駅があった。駅にはたくさんの小さな人々がいて、それぞれが電車が来るのを待っている。新緑の生い茂る山の向こう側から、電車がやってきて、だけどそれは駅に止まらずに音を立てて通過する。人々は身動きもせず、通り過ぎる電車を見据えていた。
 それは、神が私を見ているのならば、きっとこういう風に見えるのだろうという景色だ。
「いらっしゃい」
 背中から声をかけられて我に返る。
「あっ、あの」
「どうぞ、ゆっくり見ていってね。だけど触っちゃだめだよ。これはとても壊れやすいものだから」
「とても壊れやすいもの」
 町を見下ろす私を、その人は見下ろしていた。ごく普通のお兄さんに見えた。眼鏡をかけた優しそうな男性。
「これはなに……?」
 大きな体をゆったりと動かしながら、彼は山の向こうに回る。
「これ? 鉄道模型っていうんだよ。僕が作ったんだ」
「作った?」
「うん。作ったといっても、まあこの展示のために買ってきたパーツもあるけどね。このビルや山は一から僕が作ったんだ。いかに予算をかけないかが難題でね、プリンターで出力したものをケントボードに……」
 彼は町を指差しながら説明をしてくれたけれど、そのほとんどは私には理解できず、あまり頭に入ってこなかった。町を見下ろす大きな体と、爪の先ほどの小さな人々のギャップにくらくらする。この人がこの町を作ったという事実が、とてつもないことのように思えて受け入れられずにいる。
 電車がまた音を立てて駅を通過する。この町に住む人は、だれも電車に乗ることができない。

 そのあとどうやって家に帰ったのか覚えていない。あるいは、あれは夢だったのではないかとも思う。だけど彼の言った「とても壊れやすいもの」という言葉が、ずっと私の中に染み付いている。それは恐怖であり、救いでもあった。
 世界がとても壊れやすいのならば、私にとってそれは願ってもないことだ。

 *

 あの日以来、私は鉄道に親近感を持つようになった。だけど子供の小遣いでは鉄道模型を作ることなどできず、私は頭の中に線路と駅を組み立てた。学校の図書室にあった時刻表を、隅から隅まで読んだ。中学校に上がる頃には、私の頭の中の路線図は現実世界を凌駕するほど複雑なものになっていた。

 放課後、中学校の図書室で時刻表を眺めていると、いつもは人の来ない図書室に二人の女子生徒が入ってきた。閲覧席に座っている私をちらりと横目で見て、それから書棚に向かう。知った顔だった。二人のうちの一人は、一年のときに同じクラスだったことがある。
「自主学習、なんにするのー?」
「えー、めんどいよね。なんでもいいんだけど。あ、電車の本ある」
「電車? いいかも。私、わりと電車に乗るのすきー」
 静かな図書室に二人の声が響く。聞くともなしに聞こえてきた言葉に、心が少し踊る。
「あっ、あのさ」
 私は時刻表を抱きしめたまま閲覧席を立ち上がる。
「え?」
「鉄道の研究をするなら、この本がいいと思う! あと、こっちの図録もおすすめで……」
「へえ、そ、そうなんだー」
「ねえ、ちょっと、あっちの本も見てみよっ」
 私が書棚から抜き出した本を眉をひそめて見返し、二人は苦笑しながら図書室の奥の方へと逃げていく。
「ねえ、まさかあの子と友達?」
「違うよ、一年のとき同じクラスだったけど、話したことないし」
「マジで? キモくない?」
「時刻表めっちゃ真剣に読んでた!」
「研究とかゆってた、ヤバいね」
 隠す気もないのか、二人の話し声が書棚の向こうから聞こえてくる。足元が凍りつき、思考が停止する。私はなにを間違えたのだろうか。ほんのちょっとした親切のつもりだったのに。

 貸出手続きをしていない時刻表を抱えたまま、私はロボットのように足を運ぶ。自分と世界の境界が曖昧になっていく。この世界はとても壊れやすいもの。ならばいっそ壊れてしまえばいい。私が居なくなったあとも、この世界が当たり前のように存在するなんてことはどうしても考えられなくて、ならばこの世界を壊すためには私が居なくなればいい。
 踏切の音が聞こえる。いつの間にか、通学路を外れて歩いていた。踏切の黄色い遮断桿がゆっくりと降りていくのが視界に入る。
 踏切はいいな。踏切は大好きだ。この中で最後を迎えるのは悪くないと思う。私は足を早め、踏切の遮断機をくぐる。電車の姿はまだ見えない。
「こんな世界、なくなったっていい」
 私じゃないだれかの声が聞こえる。どこかで聞いたことのある男性の声。住宅街のあいだを縫うように、電車が私のところへ近づいてくる。
「もう終わらせたいんだ」
 そうだ、私はこの声を知っている。あの日、鉄道模型を見せてくれた人。違う、もっと昔から、私はこの人を知っていた。
「全て、壊れてしまえ」
 言葉とは裏腹に、穏やかな全てを諦めた声。電車が速度を落とさずに私に迫る。それと同時に、私の体は膨張する。胸に抱えていた時刻表がみるみる縮んでゆき、私の手からこぼれ落ちる。踏切が、線路が、家が、小さくなっていく。しゃがみこんだ私の膝に、小さな電車がこつんとぶつかって脱線もせずに静止する。
「町が……」
 電車は箸箱くらいの大きさになっていた。私の右足の靴は中学校のグラウンドに置かれていて、反対の靴は家の近所のコンビニにあった。手のひらが公園の大銀杏を押しつぶしていた。踏切は、おそらく私のスカートの下にある。
「また死に損ねた」
 山の向こうから、鉄道模型のお兄さんが歩いてくる。町をなるべく破壊しないように、畑や芝生を踏んで歩いているようだけれど、彼の大きなスニーカーは少なからず家々を踏み潰している。
「あなたは……、神?」
 踏切の近くまで歩いてきたその人を、私は見上げる。
「はっ、神だって?」
 自嘲するように彼は笑い、陸上競技場の上に腰を下ろす。目測を誤ったのか、隣にあるスーパーを巻き込んで破壊する。
「ずっと前から、私はあなたを知っていた気がする」
「そりゃあ、この世界を創ったのは僕だから、君たちから見れば神かも知れないけれど」
「この世界を創った」
「神なんて、そんないいもんじゃない。僕は僕の人生すらまともにコントロールできない」
 優しげな彼の目は少し赤くて、そのせいか酔っているようにも、泣いているようにも見えた。
「この世界を壊すの?」
「ああ、僕が居なくなればこの世界は消える」
 どうでも良さげに吐き出された言葉に、なぜだか怒りがこみ上げてくる。さっきまでは自分も似たようなことを考えていたはずなのに、自分勝手な都合で世界を壊すなんて、とても馬鹿げたことに思えた。
「……あなたが創った世界なら、ちゃんと最後まで責任持ちなさいよ!」
「えっ」
「壊したいなら壊せばいい、なんでも自由にできるんでしょう」
「そりゃまあ、僕が創った世界だし」
「いつだって壊せるし、いつだってやめればいい。ただ、なにかやりたいことがあってこの世界を創ったんでしょ。私はそれを最初から知っていた気がする。あなたはまだそれを叶えてない!」
「やりたいこと? 僕のやりたいことってなんだろう」
「なんで私にそれを聞くの! 馬鹿じゃないの!」
「うわあ、僕めっちゃ怒られてる」
 なんて情けない神なんだろう。ひどい、ひどすぎる。こんな人、放っておける訳がない。
「私、こんな世界なんてどうでもいいと思ってた。でも、あなたの都合で世界を壊されるのは絶対に嫌だ」
「まさか、君に説教されるとは思わなかったなあ」
 日が沈みかけていた。家々には火が灯り、遠くの線路を列車が走っていく。
「説教されるようなことをするから」
「しょうがないな、もう少しやってみるか。がんばれるかどうか分からないけど」
 彼は諦めたように微笑んで立ち上がる。スラックスに付着したいくつかの小さな車を、手で払う。
「がんばってよ」
「うーん、まあ僕なりに」
 最後に「君もがんばれ」という言葉が聞けるかと思ったけれど、そんなこともなく、彼は線路を見下ろして笑っていた。

 ふと気づくと、あたりはすっかり暗くなっていた。私の目の前を踏切の遮断桿が降りていく。私は線路の上に立っていた。
「危ない!」
 慌てて遮断機をくぐり踏切を抜け出す。あたりに人の姿はなかった。振り返ると、列車が踏切を通り過ぎていく。強い風が私の髪を揺らす。両手にしっかりと時刻表を抱きしめていることを確認する。大丈夫、世界はまだ壊れていない。

 *

 神に説教をした、という出来事は私の中で大きな自信になった。一つだけ気づいたことがある。私と人々のあいだに隔たりがあるのではなく、私が人々とのあいだに隔たりを作っていたのだ。私という自我をはっきりさせないことが、生きるための術でもあった。
 だけどあの日、もうそんな振る舞いをする必要はないのだと知った。情けない神の気分一つでこの世界が終わるのなら、そこまでして自分を守る意味なんてない。私は私の「やりたいこと」をやるだけだ。

 高校の制服を着たとき、ようやくこの世界に生まれ直したような気持ちになれた。この制服はとても私に似合っているし、もうだれの目も気にせず、好きなように生きてやる。まずはこの高校に、鉄道研究部を作ること。それから新しい友達を作る。引かれたってかまわない。どうせこの世界はとても壊れやすいのだから。
「パンパカパーン!」
 私は大きな声を上げて教室の扉を開ける。新しいクラスメートの怪訝な表情が、やけに心地良かった。



→鉄研でいず1 へ続く BCCKS

お祝いの小説

えふらぁーむばふ
ぐあのたいーずる

إري الجنة تمبورا

伊藤なむあひ
Namuahi Ito


ポストモダン、アヴァンギャルド、実験小説、寓話など
といった小説を得意とする。
2015年7月4日に
妹の弍杏、叔父の潤一郎と
共に隙間社を設立。
KDPを中心に、
これまでに無かったような小説を発表している。



「どうかしましたか?」
 目をみつめ、ほほえむ。それだけでその人の顔から数瞬前にあった警戒の色は消える。
 わたしは笑顔のまま続ける。
「なにかを探しているとか」
 こちらからするとわざとらしく、まるで何かの台詞みたいな言葉だなと思っていても言われた方はそうでもないらしい。相手は、ともすれば恥ずかしそうにそれを肯定する。人は善意に弱いのだ。
「いや実は……」
 そうして、いとも簡単に相手は心を開きはじめる。
 男は久しぶりにこの町に来たのだという。懐かしむような口調でこの町の思い出を語りだす。その場所その場所についての思い出をわたしに話してくれる。
 わたしはというと、男の話に愛想よく、でも決して邪魔しないよう相づちを打っていく。スタンプみたく小気味良く、話のあいだあいだに、ぽん、ぽん、と職人みたいに押していく。そのたびに、男の言葉に込められた温度はあがっていく。
 うつくしい思い出と、その情景。収束していく。場所の話はそこでの出来事の話になり、それはやがて『誰か』の話になる。『誰か』。その人にとっての特別な『誰か』。男の話をするたび少しづつピントが合っていくように、その『誰か』の輪郭が、細部がはっきりしていく。
「いまから、そこに行くんですか?」
 男の顔に再び戸惑いの色が浮かぶ。視線は下がり、話すのをやめ、体を硬直させる。だから、わたしはその背中をそっと押してやる。
「わたし、行ってみたいです。その場所」
 めでたく、男は大義名分を得る。そして歩き出す。それと同時に、『誰か』も歩き出す。情報と想像。それはわたしにだけ見えている。
『誰か』は、わたしの前を歩く男の、さらに前を歩きだす。男はそれに気付いていない。わたしには見える。『誰か』は、明確な意思をもってわたしと男をある場所に連れていこうとしている。それがどこなのかはわたしには分からない。
 男はその背中を追うように懐かしいこの町を歩いていく。わたしに思い出を語りながら。『誰か』の足取りは近付くにつれ軽くなっていくように思える。男の足取りも。ここまで来たら、わたしの仕事はほとんどない。もうついて行くだけだ。
「ああ、ここだここだ!」
 言いながら、男はその場所に近づいていく。歩くのももどかしい、といったように早足になる。わたしは笑顔でそれを見届ける。そして、わたしにしか見えていなかったはずの『誰か』が、姿を現す。男とはあきらかに年齢差があり、親子のようにも見える。男がなにか声を掛ける。既にわたしにはそれは聞こえない。ここから先は彼の時間だ。
「じゃあ、わたしはこのへんで」
 一応言ってはみるがわたしの声も男には届いていないだろう。そうしてわたしはその場所をあとにする。小さく静かな満足感を胸に。

 今日はどこだろうか。
 目が覚めて、はじめに思う。最初の頃は戸惑っていたが、いまでは楽しみに思えるようになった。あたりを見回す。今回も初めての場所だ。いまのところ、二度目だったということはない。それが偶然なのか必然なのかはわたしにはわからない。
 天気がいい。不思議なことに雨や雪が降っていたりしたことはない。服装だって気温に合わせてコーディネイトされているから不思議だ。これも偶然なのかもしれないが、それもわたしには分からない。
 今日はどんな人だろうか。
 それが次に浮かぶ疑問だ。怖い人だったらいやだな、でもそれもいまのところ、ない。一度くらいそんなことがあってもよさそうなものだけど、これまで会ったことがあるのは全て気が弱そうだったり、自信がなさそうだったり、なにか不安を抱えていそうな人ばかりだった。そして、
「あの、すみません」
 驚いて振り向く。そこには言葉通り申し訳なさそうにわたしの様子を窺う女性がいた。そう、これはめずらしいケースだ。これも理由は分からないのだけれど、わたしが出会う人のほとんどは男性だった。
「あの……?」
「あ、すみません」
 慌てて笑顔をつくる。無表情であったろうわたしの様子に、女性はさらに不安を増したようだった。
「あ、いえいえすみません」
 どうしてか互いに謝り合うことになってしまう。
「ええと、どうしましたか?」
 相手が女性ということもめずらしいが相手から話しかけられるのはもっとめずらしい。つい、いつもと違うことが起こるのではないかと思ってしまう。もしかしたら今日が特別な日なのではないかと。
 どうかしましたか、なんて訊くものの、要件は分かっていた。
「あの、このあたりの方でしょうか?」
 いくつかパターンはあるものの、今回も予想の範疇を超えるものではなかった。わたしは「はい、そうですが」なんて言いながらもういつものペースで人好きのする笑顔を貼りつかせている。ようやく、彼女が安堵したのが伝わってきた。
 この分だと今日もスムーズに終わりそうだった。性別が変わろうが相手の望むことはひとつなのだ。であれば、わたしのすることもひとつ。こうしてわたしは今日も出会った相手を『誰か』の元へと連れて行く。
 これがわたしの毎日だ。わたしはこの仕事に誇りをもっている。だけど、わたしの毎日がこれ以外になったことは、ない。

 今日はずいぶんと静かな場所だ。森、林、とにかく木々に囲まれた場所だ。すぐ近くに小川が流れている。上空から小さく鳥の鳴き声が聞こえた。とにかく近くに人の気配がない。こんな場所に人は通り掛かるんだろうか。こんな場所に来るのはどういう人物なのだろうか。
 ざく、ざく、と草を踏む音がする。あまりわざとらしくなってはいけない。それは誰に教えられたわけでもないがいつの間にか自分のなかに生まれたルールだった。こちらから声を掛けるときは控えめに、相手に声を掛けられるときは無防備に。だからわたしはできるだけ自然に足音のする方を向いた。
 男が立っていた。その両目はしっかりとわたしを見据え、どうしてだろう、そこには憐れみのようなものが含まれていた。すぐに理解した。この男はわたしのことを知っている。
 男とわたしの距離がだいたい三メートルほどになったとき、わたしから男に声をかけた。
「あなたは誰」
 最悪だった。
「わたしをここから出してくれるの?」
 これから目の前の男を『誰か』のところに連れて行くにあたり、ほぼ最低といっていいほどの言葉だった。だけど、たとえそうだとしても、わたしは自身の行動を止められなかった。男がわたしの毎日が終わらせてくれることを願ってしまうのだ。
「殺しに来たんだよ、きみのこと」
 だから男の口からその言葉を聞いたときも、私は自分の命が消えてしまうことへの恐怖よりも感謝の気持ちが溢れた。
「ありがとう」
 男は不思議そうにわたしを見た。
「逃げないのか?」
 口調が、年上の人間が年端もいかぬ少女を諭すように柔らかいものへと変わる。
「どうして?」
 こんどはわたしが不思議そうにする番だった。男がわたしに近付いてくる。手にはいつ取り出したのか銃、のようなものが握られていた。恐怖はない。それよりも、わたしは男に訊かなくてはいけないことがあった。
「わたしは誰なの?」
 再び男が立ち止まる。自殺を考えたこともあった。だが、その疑問を解けないかぎりはそれもできなかった。男のあげた右手の銃口と目があう。
「きみは」
 男の表情に再び憐れみの色が浮かぶ。わたしが死ぬことに、だろうか。それとも、わたしの質問に対する答えに、だろうか。
 次の質問をするべく口を開けようとした瞬間、銃口が震えたように見えた。

 今日はどこだろうか。ゆっくりと周囲を見渡す。Uの字に大きくカーブした道路の一番奥、小さな空き地の真ん中にわたしは立っていた。都会という感じはなくむしろその逆。家も昔から建っているようなものばかりだ。ベランダの物干し竿。錆びた屋外用灯油タンク。そういったものがこの場所の性格を表している気がした。
 空き地にはわたしの膝くらいの長さの雑草が茂っており、ところどころにタンポポの黄色が見える以外はその緑が土を覆い隠していた。草のにおいを感じながらここに訪れる相手を想像しようとしてすぐにやめる。想像する前に男が現れたからだ。
「こんにちは」
 こちらから声をかける。男はそれを無視する。まるで、わたしがここに存在していないみたいにきょろきょろと辺りを見ながら歩道を歩いて行く。聞こえていないのだろうか。ねえ、もう一度声をかけようとしたとき、男が立ち止まった。そしてさっきまで不安そうだったその顔が、驚きと喜びで満ちていく。
「■■■ちゃん」
 男の声と視線の先、そこにはわたしと同い年くらいの女の子がいた。■■■ちゃん、と呼ばれた女の子は男の存在に気が付くと嬉しそうに両手を振った。男が女の子の元に駆け寄る。そこでわたしは、奇妙なことに気が付いた。男が一歩進むたびに、女の子が少しづつ大きくなっているのだ。それだけではない、魔法でも見ているみたいに服装や髪形までが変化している。
 無邪気に両手を振っていた小学生くらいだったはずの女の子は、男がすぐそばに着くころには男と同年代に見えるくらいにまで成長していた。わたしはそれを、映画でも見るように静かに眺めていた。
 男と女は再会を喜びあっているようだった。そしていつの間にか手を繋ぎ、わたしが立っている空地の方へと話ながら歩いて来た。気が付くと空き地だったはずの土地に、家の土台ができていた。一歩、また一歩、ふたりがこちらに近付くたびに、家は完成に近づいていく。わたしはその家の中に消えていく。ふたりの姿が、壁に阻まれ見えなくなる。
 やがてチャイムが鳴らされる。反射的にドアに向かおうとするわたしの横を、誰かがすり抜ける。見覚えのある後ろ姿。それは、わたしだった。わたしが鍵をまわしドアを開ける。光と共にその映像が入ってくる。すっかり夫婦らしく年を重ねた二人。それを迎え入れるわたし。皆が笑顔だった。わたし以外は。
 これはどういうことだろうか。わたしはもっと彼らのことを見て、彼らのことを考えたかった。彼らの元に駆け寄りどういうことなのか問い詰めたかった。けれどもう時間だ。視界が霞みはじめている。わたしは消える。そしてまたいつもの毎日がはじまる。誰か助けてほしい。この無限を終わらせてほしい。もうすぐだ。もうすぐ意識がなくなり、次目覚めたときにはリセットされたみたいに次の相手を導くことになる。
 わたしは次に起きたとき、どこで目覚めるのだろう。またこんな不思議な体験をできるのだろうか。希望を味わえるのだろうか。この繰り返しはいつまで続くのだろうか。誰かわたしを救い出してほしい。助けてください。わたしは、わたしの毎日がわたしの毎日以外になることを望む。

 男は地面に横たわる少女の前に座り、そっと胸に手を置いた。男には彼女の死を確認する方法がこれで正しいのか自信がなかった。なにせ、少女は男の知る人類とは違う生き物なのだ。少女の父親は人類だった。少女の母親も人類だった。ただふたりは、同じ時間軸に生きていなかった。
 タイムマシンの実用化。それは親殺しのパラドクスという大きな問題を抱えたままではあったが理論上は可能となり、実際に選ばれたパイロットが試験的にタイムトラベルを行うまでになっていた。だが、そこで事件は起こった。
 試運転のパイロットの男は、ある目的を遂げるためにこのパイロットに志願していたのだ。男はタイムマシンの操縦を任されており、多くの関係者が見守るなか大胆にも指定の時代を変更し、同乗者の制止を振り切りその時間に消えた。それを見ていた誰もが彼の行動理由を理解できなかったが、それは後日、タイムトラベル先の時間と、彼の同僚が彼から聞いたという話から判明した。ずっと昔に死に別れた幼馴染との再会。それが男の目的だった。
 男はそれきり元いた時代に戻ってくることはなかった。仮に男がそれを望んだとしても帰る手段はもうなかった。タイムマシンは同乗者の運転により元の時代に戻っていたからだ。それは大きな事件として取り上げられることはなく、関係者の内で処理された。
 それ以降もタイムマシン実用化に向けての試験運転は繰り返された。だが、厳しい審査を受けたパイロットの誰もがタイムトラベル先の時代から帰ってくることはなかった。そしてタイムマシン実用化がその先に進むことはなくなった。
「きみが何者なのかは残念ながら俺には分からない」
 男が少女の死体に語り掛けた。
「俺が分かっているのはきみが、俺の生きている時代から来た人間を迎えてはそいつの望むところに連れていっちまうってことだけだ」
 忌々しそうにその言葉を口にする。
「俺の部下も」
「どの人だったの?」
 男が思わず立ち上がる。少女は生きていた。
「楽しい夢を見ていた。夢なのかは分からないけど」
 男には少女が何を言っているのか分からなかった。
「そう、あなたはわたしが憎かったのね」
 少女は何事もなかったかのように起き上がる。
「その割には悲しそうな顔をしていた」
 背中の土を右手ではたくと少女は続けた。
「わたしは、ただここに来た人が望むことを叶えていただけ」
 男は再び銃を構える。
「それ以外に存在している意味なんてなかった。わたしはただ、ここにきたみんなの幸せを願っている。でも、それもちょっと疲れちゃった」
「ようやくきみのことが分かった気がする。きみは」
「おじさんはわたしに会いたかったんでしょう? わたしを望んだんでしょう? あなたの目的が、望みがわたしならばわたしはわたしの毎日を終わらせられるかもしれないの」
 引き金にかかった男の指に力がこもる。男と少女は同時にそれを言った。
「あなたはわたしに会いに来てくれた。わたしがあなたのなの」
「きみは時間の流れのなかのエラー、バグ、ノイズ、そういったものなんだ」
 少女は両腕を広げたとき、二度目の銃声が響いた。


お礼の小説

シファと総裁へ

for Shifa and Kira

米田淳一
Junichi YONETA


1973年8月生まれ。秋田出身。1997年11月、講談社ノベルズより女性型女性サイズ戦艦のSF小説「プリンセス・プラスティック~母なる無へ~」を発表して商業出版デビュー。現在神奈川県厚木市でネコ2人と同居。自著の挿絵用CGや鉄道趣味・鉄道模型趣味を生かした鉄道小説を無料公開するとともに、Kindle版として主要作品であるプリンセス・プラスティックシリーズなどを再刊開始。NovelJam 2017 米光一成賞を「スパアン」で受賞。



 特等突破時空潮汐力戦艦・シファ(シファリアス)へ。君が私の所に現れたのは私が中学生の時だった。もともと『エルスリード』というゲームに出てくるウイングナイトというめっちゃ強い敵キャラが君のルーツだった。時間も空間も超える圧倒的な強さを見せつけた君は、その後私に心を開いていった。
 プラスティックのプリンセスとしての繊細さに私はますます魅了され、私のデビュー作「プリンセスプラスティック・母なる無へ」で進空した。今でも私は君の雄姿に憧れている。最近はちょっとお茶目でポンコツな所が出てきたけど、それでもやっぱり君は君だ。現在連載中の『プリンセスプラスティック・コンフュージョンコントラクト』でも活躍してくれて嬉しい。あとNovelJAM2018でも、他のいくつもの窮地で、心の支えとして君の存在に助けられた。感謝しかない。君がいなければ今私はここにいなかっただろう。
 そしてもう一人、長原キラへ。『鉄研でいず!』でみんなに『総裁』と呼ばれている君にも感謝。『乙女の嗜み・テツ道』を追求するその姿はいつも私を律するときの基準だ。これまで幾度もの窮地に陥ったとき、君ならどう考えるだろう、とテキストエディタに向かうと、君は必ず大事なことを明快に答えてくれた。他の鉄研部員を君が引き連れて私の所に舞い降りて数年になる。相変わらず君に支えられ叱咤されないと『テツ道』というテツ道趣味に止まらない人間と社会の研究の深みと意義を見失ってしまう情けない著者の私だ。
 結局私は君たち二人に支えられてきたけど、まだ少しも恩返しができていない。シファはアニメ化の話もあったのに私の思慮不足が口実とされ結果至らなかったし、総裁にもせっかく話を12話構成にしたのに未だにそれ以上の展開ができないでいる。『鉄研でいずラッピングトレイン』も模型でしか実現していない。
 情けない著者ですまない。いつの日か力を得て、君たちを本来の姿で活躍させたいといつも願い、今もあがき続けている。


「……え、なにこれ」
「うむ、これは我らが著者のGoogleDriveにあった手紙であるのだな」
「ええっ、いきなり他人の出す前の手紙読んじゃダメじゃない! それも私たち宛の手紙よ!?
「さふであるが、昨今著者が精神的に不安定すぎるので、密かに我が鉄研特務機関を使ってDrive内を検閲しておった」
「総裁酷いなあ。それにうちの著者、セキュリティどうなってるのよ……」
「でも仕方なかろう。この著者がいないと我らは消えてしまうのだからの。作品のキャラクターとしては重大な関心事なり」
「……そうね。ろくに納本もしてないから、著者にもしものことがあったら、著者のアカウントごと消えちゃうものね」
「さふなり。電子書籍の納本制度もよくわからぬ……eデポなるものが国立国会図書館にできておるのは察知しておるが。シファ殿の未来ではまた別であろうの」
「そうですね。でも私のいる22世紀の未来でも、紙の本は残ってるんですよ」
「それは意外なり」
「コレクションとして紙本はとても所有欲を満たしてくれるものだから」
「さふでありますなあ。ワタクシも『鉄研でいず!』がプリントオンデマンドで紙本として手に入ると嬉しいものであります」
「私の時代だともっと変わったシステムで紙本が流通しているのよ」
「うっ、それはもしかするとスマートコントラクト出版でありますか?」
「あんまり詳しく言うと怒られちゃうけど、総裁だったらわかっちゃうわね」
「恐縮なり。著作権の保護から出版流通、支払決済まで全て、ブロックチェーン技術でおこなってしまうわけですな」
「そう。だから出版社も取次も存在せず、国会図書館が必死に資料を集める必要の一部はなくなったの」
「まさに生きた本の世界でありますな」
「生きてるって面では、もともと私たち生命も情報のブロックでもあるんだけどね」
「デジタル物理学ですな」
「……総裁って不思議ね。私、総裁みたいに著者に説教するなんてできないもの」
「我が著者ははなはだ軟弱なり」
「でもそのお説教がちゃんと意味あるのはすごいわね」
「恐縮であるのだ。もとより我らの物語に需要などあるわけないのだ。需要はあるものではなく作るものであるのだ」
「そうね。そういえば総裁、とうとう決戦兵器『あぶないみずぎ』投入しちゃったわね。NovelJAM2018に」
「いかにも。小説版ハッカソンとも言うべきあのイベントで、著者が慣れない編集役をしていて轟沈しかかったので、今こそ来たるべき本土決戦の秋と思い、一肌脱いだのである」
「脱ぎすぎよ、総裁は。この前の読者リクエストのあった著者オリジナルの架空周遊列車『あまつかぜ』の露出多いコスプレも結局楽しんでたし」
「恐縮なり」
「そこ、恐縮するとことじゃないわよ」
「さふであるのか。勉強になるのう」
「総裁って不思議だなあ」
「かくいうシファ殿も不思議ではないのですか」
「いやー、ミステリアスとか不思議担当艦は姉妹艦のミスフィだから」
「『不思議担当艦』! かつて『被害担当艦』といわれておった戦艦〈武蔵〉や空母〈翔鶴〉みたいですな!」
「もー。総裁もほんと、艦船好きなのね」
「ワタクシの兄は艦船乗り組みの海上自衛官でありますからのう。というかシファ殿、もうすぐ正面に富士山が見えてくるのだ。見逃してはなりませぬぞ」
「えっ、私たちいつの間に電車に乗ってたの!」
「それも小田急最新鋭の70000形ロマンスカーGSE車の前展望席1A・1B席に我々は乗っておったのだ」
「……ぜんぜん気付かなかった!」
「それは著者が乗車シーンなどもろもろを書き忘れてたからであるな」
「ひどい! まるでここで突然思いついたみたいじゃない!」
「それもアリですからのう。でもさすが前展望席、風景が大迫力で迫りますなあ」
「そうね。うちの鳴門君がロマンスカーロマンスカーってうるさく言うから、なにかなと思ってたけど」
22世紀の未来でもロマンスカーは走っているのですな」
「そう。鳴門君、旅研って言う鉄研みたいなサークルだし」
「それでシファ殿は鳴門さんと結ばれたのですな」
「詳しいわね」
「既刊の作品を読めば自明なり」
「そうね。小説のキャラクターは日記とか付けなくても作品読めばいいもんね。ずぼらな私にはホント助かるわ」
「戦艦なのにずぼらとは」
「片付けも早起きも苦手だから」
「困った戦艦ですな」
「私もそう思うわ。自分のこと」
「ともあれ、こうして箱根へ旅しておるのですから、箱根で温泉も堪能しませう」
「そうね。私は艦娘みたいに『入渠』になっちゃうけど」
「それもまた良き哉」
「そうね。あ! でもこの原稿どうするんだろう! 著者、実家の親来て頭抱えてたけど」
「うちの著者の家庭の事情はワタクシたちはどうにもできぬ。まずは原稿は著者に任せて我らは旅を続けるのだ」
「そうね。それが私たちの仕事だもんね」
 ええっ!! ここで投げっぱなし!?
「著者は与えられた仕事をしっかりするのだぞ」
 えええええ!!
 箱根行きたいー!
「ええい、キリキリ働けい!」
「総裁もドSね」
「うぬ? ドSは我が鉄研の御波君の役割なり」
「えー! 私そんなじゃないわよー!」
「えええっ、この声は御波ちゃん! 鉄研のみんなも乗ってるの!」
「それどころかシファ殿の99任務群のみんなもこの1号車に乗車中なのだ」
「いつの間に集団旅行に! これ、キャラ多すぎて収拾着かないわよ!」
「それが我が著者の作品の多くのパターンでありますからのう」
「ヒドイッ!」
「ああっ、その声はツバメちゃん!」
「うむ、みんなを乗せてこの列車は箱根へ向かっておる。優雅かつ順調な旅。ロマンスカーは急ぐ乗り物ではありません、なのだな。そして流行のカレーはお嫌いですか?」
「総裁、特務の青二才ごっこしてどうするの? しかも流行のカレーって、普通の人読んでも元ネタわかんないでしょ! 経緯説明すると長くなるし!」
「おお、確かに誌面を見た読者の皆さんが戸惑っておる! しかもシファ殿、それでは血圧あがってしまうのだ」
「これじゃあがっちゃうわよ。なにこのメチャメチャな展開! まるで『鉄研でいず!』みたい」
「そう思っておったのだが。これは『鉄研でいず!』『プリンセスプラスティック』合同懇親旅行であるからのう」
「聞いてなかった! というかこの企画も展開も、絶対後付けだから!」
「苦情は著者まで! どしどし送りつけるがヨイのだ」
「ヒドスギル!!」
「ところでこの原稿、字数制限が3939字と聞いておるのだが」
「ま、まさか! また字数制限切れで締める気? それじゃ『鉄研でいず!』の」
「パターンであったのだ」
「じゃあ、また『もう喋っちゃダメ! 字数消費しちゃうから!』ってやるの?」
「それはせぬ」
「え、しないの?」
「そもそも今回の企画は、我々登場キャラへの我が著者による謝恩慰労企画であるからの」
「そうならそうと言って欲しいわよ。まったくもー」
「おお、まもなく新松田ですな。ここの小田急線と御殿場線の間の連絡線の分岐が見学ポインツでありますぞ」
「よくわかんない……私そこまでテツじゃないし」
「というわけで斯様にシファ殿をドン引きさせたところで、まさにこの旅行の目的は達成されたと言えよう!」
「達成しなくていいです! ああああ、これじゃまたこの記事の読者はゼロだもうダメだ! 万策尽きた!」
「たった3939字のエッセイすら崩壊させるとは、始まって5分でバルスになってしまうラピュタのようでありますな」
「総裁! あなたがやっておいてそれ言っちゃダメでしょ!」
「恐縮なり」
「だからずれてるわよその恐縮!」
叫びを乗せて列車は行く。
「これもいつもの著者と我々であるのう」
「うるさいっ!」


永久に続く

編集後記という名の反省会

某月某日某アジトにて


波野發作 ようやく完成の目処が立ったわけですが。果たして喜んでくれるのかどうか。
山田佳江 お疲れ様でしたお疲れ様でした! もしかしたら怒っちゃうんじゃないですかね。「みんなばっかり、こっそりと楽しいことしてヒドイっ!」って。
淡波亮作 いやあ、僕なんかもトリビュートというよりパロディになっちゃってるので、ほんと、「ヒドイっ!」って言われたくて書いたようなものですね。でも、愛は込めてるんですよ。はい。
伊藤なむあひ なんかみんなのお祝いムードの作品ばかりのなかひとりだけえらく暗いものを書いてしまったんじゃないかと、書き終わってから気が付きましたがきっと許してくれるはず!
波野 誰に寄稿をお願いするかは悩んだんですが、ぼくらから見てお付き合いがありそうな人しかわからないのであまり広く募ることができませんでした。サプライズを公募するわけにもいかないしね(笑)
山田 「私も寄稿したかった!」という人がいたら、本当にすみませんでした。
淡波 そうですよね。群雛やオルタニアの編集部なんかでずっとお付き合いさせていただいてますけど、きっと作品の大ファンの人からしたら、「自分ほど米田作品を愛していないくせにあんなの書いて!」とか怒られれてしまう。この場を借りて、ごめんなさいです。
山田 なにしろサプライズ企画なので、米田さんに隠し通すのが大変でしたね。
波野 本当は11月に間に合わせるはずだったのになかなか動けなくて。春の予定を聞いて、チャンスはそこしかない! って。
淡波 この日程になってぼくはとても助かりましたね。11月だったらどう考えても参加出来なかったですし。
山田 計画がうまくいっていれば、米田さんはこの本を春に手渡されているはずですね。
淡波 楽しみだなあ!
伊藤 こういうサプライズ企画ってはじめて参加したんですが、受け取った瞬間のことを想像するの楽しいですねえ。
波野 無様に泣き崩れていればざまーみろですが、残念ながらその姿は見に行けません。想像だけしておきます(笑)
山田 波野さんは自分でサプライズトリビュートを企画しておきながら、みんながガチに米田さんをトリビュートしたら、ちょっと嫉妬しちゃうタイプですね。
波野 そ、そんなことないもん! まあぼくはこれから20年とか絶対書けないから、その心配はありませんけどね!
淡波 愛すべき黒幕ですな(笑)
伊藤 さすがセルパブ界隈の影のフィクサー。
波野 俺のこたーいいんだよ(笑)。他にも上手いこと総裁のモデルになった人の情報を米さんから聞き出したのに、本人までたどり着く余力がなくて無念でした。
山田 そうそう。「鉄研でいず」主人公のキラ総裁に、実在のモデルがいたことは驚きだったのですが、その本人まで特定できてしまいましたね。発行が夏くらいだったら、総裁本人にインタビューに行っていたかも知れません。
波野 アポイントメント取るまでの絵図は書けてたんだけど、時間が足りないこともわかってしまった。
淡波 秘密のトリビュート本に、本人に寄稿させてしまうという手腕には脱帽ですよ。
波野 あれは……、あまりにチョロいので心が痛みましたが、そこは結果オーライで。やっぱり、米さんの原稿なしじゃ物足りないじゃない? オルタニアの別冊なんだし。
淡波 「チョロい」って(笑)
波野 いや、だって、万が一のときにためにプランBとかCも念頭にあったんですが、山田さんから仕掛けてもらって速効でかかってくれたし、その日のうちに原稿までくれましたから。早くネタばらししたい気持ちでいっぱいです。
伊藤 本人へのサプライズ企画に本人の寄稿作品が掲載されてるって斬新ですよね(笑)
波野 という山田さんも筒井さんへの秘密工作っぷりがくノ一ばりで素晴らしかったですよ。
山田 今回、こっそり筒井さんと連絡を取らせていただきました。計画にも喜んで乗ってくれて、本当にいい人!
波野 ここで断られていたら頓挫してたかもしれないしね。お二人の功績大です。……というか、なんでみんなこんなにいっぱい作品書いてんの(笑)。メッセージ集みたいなイメージじゃなかったっけ?
山田 いや、トリビュート雑誌だと聞いてましたよ。いつ寄せ書きになったんですか(笑)。そんなの聞いてないです。
波野 おかしいなあ。
伊藤 では30周年お祝い企画でまたお会いしましょうー!
淡波 ちょうど時を同じくしてノベルボッチ(「三日間でアイデアから出版まで」というパクリ企画)って一人イベントをやっていたのですが、コレ、米さんが日常的にやってる執筆ペースと変わらないって気付いて。改めて米さん、すごいなぁ! と。今後とも面白い作品を楽しみにしてますので、お体に気をつけて頑張ってください!
波野 なんにしても20年お疲れ様でした。そして次の20年ご苦労様です。それでもまだ60代だからその先の20年も書けそうだな。デビューが早い人はいいなあ。
山田 はっ! 20年という歳月に思いを馳せている間に、いつの間にか終わっていた! 米田さんおめでとうございましたー!

つづく(断言)

Backlist

■SF雑誌オルタニア

vol.1 現実以外 edited by 隙間社

「最も自由で、最も新しいSF雑誌」
気鋭の作家七名が贈る、これまでにありそうでなかったSF誌!
読み終えたとき、あなたのなかの『SF』は更新されていることでしょう。
〔掲載作品〕全7作品 編集長 伊藤潤一郎(隙間社)
オラクル(大滝瓶太)/詐欺師の鍵 第1話(山田佳江)/シャノン・ドライバー(米田淳一)/ロール・オーバー・ベンヤミン(ろす)/痛みの見せる夢(淡波亮作)/プラトーン・スタンダード(波野發作)/アルミ缶のうえに(伊藤なむあひ)

ランディングページ

vol.2 Locked edited by 山田佳江

「開かないなら壊せばいいじゃない」
いきなり創刊した最も新しい「SF雑誌」オルタニア。
さらに加速して第2弾「Locked」を発刊!
内圧を限界まで高めて、世界の閉塞感をぶっこわせ!

〔掲載作品〕全8作品 編集長 山田佳江
ワンタイムキー(茶屋休石)/ボックス、アプロックス(波野發作)/49パラグラフにも及ぶリロの素晴らしき生涯(その半生)前編(伊藤なむあひ)/繭子(淡波亮作)/SFと漫画の果てなきスパイラル[オルタニア茶話会]/私を追いかけて(米田淳一)/詐欺師の鍵・第2話(山田佳江)/サッドモッブ(進常椀富)

ランディングページ

vol.3 変身 edited by 淡波亮作

「もう、変わらずにいられない。」

変わらないか。
変わりますか。
変わる。
変わるとき。
変われば。
変われよ。
変身! トォーッ!

〔掲載作品〕全6作品 編集長 淡波亮作
巻頭イラスト特集(禅之助)/モノローグ・ワン(波野發作)/或る会議の風景(米田淳一)/醜い腕(淡波亮作)/詐欺師の鍵 第3話(山田佳江)/アトモスフィア・バーンナウト(広橋悠)

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vol.2.5増刊号 にごたな edited by 電書ちゃん

本気の小説、見せてみろッ!!

ジャンルはSF!
31名の作家たちがシノギを削る
1万字小説バトル。
選考を勝ち抜いた入賞6作品を掲載

駄作ばかりなら世界が滅ぶ!?
電書ちゃんVSニゴレンジャー
選考座談会完全収録


SF雑誌がまさかの電書ちゃんコラボで増刊号!
オルタニアのさらなる「オルタナティヴ」
満を持して発刊!

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vol.4 SF鉄道の夜 edited by 米田淳一

2017年6月刊、オルタニア4号。
編集長は饒舌魔・米田淳一。
衝撃! 雑誌が止まれない! カバーキーパーの盲点を突く! 完璧な決起計画!
これまでいろいろな夜があった。水晶の夜、長いナイフの夜、ヴァルプルギスの夜、志村の夜(なんか違うのが混じってるけど気にしない)。
そしてその夜に! 戦慄の「SF鉄道の夜」が加わる!
絶望か! 饒舌か! 暴走時代2017! 現代の狂気を強くエグる!
空前のスケールで叩きつける!
いつものレギュラーにゲスト3名、そしてあのまさかの子たちが登場!
みんなを載せたオルタニアは「走る棺桶」と化した!

オルタニア4号「SF鉄道の夜」、爆笑と興奮の旅へ一直線!

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■米田淳一の主な作品

オールアバウトオブ鉄研でいず!!

女子だけの鉄研を描いた半分実録小説「鉄研でいず」シリーズのガイドブック。「乙女のたしなみ・テツ道」の入門書として「鉄研でいず」を徹底解説。これであなたも「テツ道」を始められます!

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天使計画-プリンセスプラスティック徹底攻略

SF小説シリーズ「プリンセスプラスティック」のガイドブック。女性形女性サイズ戦艦シファの秘密大公開&プリンセスプラスティック入門徹底ガイド。超高速2142年SF完全攻略本!

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私たちのレール

 米田淳一の人生の始まりにあった相模鉄道。その創業100周年に寄せて書いたテツ道短編小説5篇を収録。SFあり、ポリティカルありのテツ道精神あふれる作品をご堪能あれ。(追加で相鉄以外のテツ道短編も1つ入ってます)
収録作品
 ・私のレール 相鉄線の新車を見に行った鉄研の女の子の出会った奇蹟。
 ・ドリーム・エクスプレス 未来の猛烈な格差婚、逃げ出した花嫁は相鉄に乗る。
 ・正義の味方 海上自衛隊厚木基地での「正義の味方」たちの活躍。
 ・ベッドタウン  首相官邸の補佐官に与えられた密命を乗せ、相鉄は走る。
 ・横浜小説小さな取材紀行 「ベッドタウン」のためのロケハンの話。
 ・回復運転 大晦日、人身事故で立ち往生した周遊列車に舞い降りる奇蹟。

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最後の艦の物語 アラカルト短編篇

アラカルト短編です。
■二人の展望席  これは当時作っていた鉄道模型の塗装が剥げたのをヒントに夫婦の危機を書いた作品です。実はこれ、私が離婚する寸前の作品。でも今も結婚のイメージは変わりません。結婚って、いいもんです。ただ私にはもったいなさ過ぎた。
■エクスプレスのソムリエ  書籍の世界の話ですが、これ、最後に世代論になります。歳を取る寂しさが、このとき想像していたものと今私が体験しているものとそっくりです。私が20代の頃に書いたんですけどね。
■ダブルブッキング  学園もの。ドラマとしてはもっと練り込めるかなと思ったけど無理でした。設計自身が古かったかも知れないけど、これ以上は書けないと思うところもあります。
■プロローグ・エピローグ  NovelJAM参戦後の反省です。賞くれて嬉しかったけど、私には過分だったかも知れない……。嬉しかったのはもちろんですけどね。
■セルパブで喰えるか・年36冊刊行計画顛末  年36冊計画の顛末です。まさかの結果に!!

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エスコート・エンジェル(2017)#1

早川書房から2001年に発行したエスコートエンジェルの4訂版です。

22世紀、人間型人間サイズの戦艦シファとミスフィに初めての任務があたえられた。それはとある王女の密着護衛であった。僅かな護衛官とともに、襲撃につぐ襲撃をはねのけ、シファとミスフィは自らの力で王女を守る。しかし王女には密命が与えられていた。バチカン、京都の教会、そして皇居へ。王女に与えられた密命、それはバチカンと皇室が互いに保有する、世界の運命を記した最新版の預言書だったのだ。王女の任務の重みに、シファは胸を痛めつつ、それでも戦う。

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大和不沈

真珠湾攻撃のなかったもう一つの太平洋戦争。
それでもなお原爆は使用され、決戦は沖縄へ。
しかし、彼らは諦めずに未来を賭けて戦う!!
もう一つの世界から平成の時代を迎える日本。
戦記アクションのもう一つの夢がここに。

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レイルモデラーズ

不思議な鉄道模型店・天の川鉄道模型社のマスターと、そこで彼が預かっている女の子(メイドさんコスして働いている)と12人のお客さんの物語。

トークメーカー・テキスト部門で一部方面に大好評の鉄道模型モデラー・シチュエーションコメディ!
著者もこんなに褒められるとほとんど思ってなかった予想外の作家生活20周年を飾る作品!
読者置いてけぼり? いえ、鉄道模型趣味わかんなくても楽しく読めてしまうとの意見あり!(ホントです)
テツ分・模型成分になぜか異世界成分やシンゴジラ成分まで含有!
なんと無双シーンに召喚魔法シーンまである!
総裁「是非読者諸賢のご検討を乞うのである!」

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天下布武金融戦記

戦国時代の帰趨を決めたのは金融だった!?
光秀と信長、そして特殊弓兵「織田邪弓隊」と謎の女武者・卯月の戦いの異色歴史小説。
=目次=
・桶狭間一五六〇 邪弓隊、前へ!
・光秀の長い四日間一五六九 本圀寺の変
・天正六年の行方不明一五七八 堺・大船御覧
・信長の身代金一五八二 敵は本能寺にありの真相

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スパアン

1919年。大正8年の頃はあまり後世で注目をされている年代ではない。しかし、変わらず人は営み、世は移り変わっていく。広島がまだHIROSHIMAではなかった頃の、あったかもしれない、いや、あったはずの物語がそこにはあったのだ。
改造社社主・山本実彦、小説家谷崎潤一郎、同じく芥川龍之介は、取材と称して訪れた広島で、林芙美子と珠子の二人の女学生と出会う。そして、若干の下心もあったその会合で、三人は思わぬ展開に肝を冷やす。触らぬ神に祟りなし。触ってしまえば災い転じて福となす。アインシュタインもユーハイムもヤン・レツルもヴィトゲンシュタインも伊藤博文も知らないワンデイエピソード。それは切り取られた広島のユリシーズ。

NovelJam 2017 米光一成賞作品

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SF雑誌オルタニア vol.4.5 [ヨネタニア]20th Anniversary

2018年4月1日 発行 初版

著  者:米田淳一 と ゆかいな仲間たち
発  行:オルタニア編集部

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サプライズ大好き集団。

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