十五歳の少年、シアンは、エリート・スクール、カデットで、編入以来七年間、首席を通している秀才。八歳の時に、自らの意思で本当の家族のもとを去り、富豪、アイリスの養子として生きる道を選んだ。その日以来、シアンの行動基準の中心には、常にアイリスの存在があった。アイリスのお気に召すように行動すること、それが、シアンにとっては、生きるということだった。
そのアイリスが、医師から、余命一年と宣告され、生前贈与という形で、財産の整理を始めたことから、シアンの運命も大きく変わることになる。他の相続人には多額のお金を遺すことに決めたアイリスが、シアンには、「ジャダ」と呼ばれる伝統舞踊の復興事業を引き継ぐことを命じ、その舞踊の指導を行う道場を遺すという。しかも、アイリスの存命中に、その道場を成功させることを条件として。
アイリスの真意を測りかねながらも、他によりましな選択肢がないという理由で、ジャダ道場の成功に向けて行動を起こすシアン。「ジャダ」とは、そもそも何なのか?その道場を「成功」させるとは、どういうことなのか。この問いに答えを出すべく、これまで全く縁のなかった世界に飛び込み、未知の人々と次々に新しいつながりを作っていくシアン。その過程で、彼は、未知の他人だけではなく、未知の自分―それまで知らずにいた感情を抱く自分、それまで取ったことのない行動を選んでいる自分を見出してゆく。
およそ一年後、アイリスがこの世を去る日。シアンは、アイリスと向き合い、自分が何をどう「成功」させたのか、静かな自信と、幸福と、未来への期待に満ちた様子で報告する。
それを見て、アイリスもまた、確信する。
自分が成し遂げた「成功」を…。
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