依子にとっての傷痕は生きている証だった。幼い頃、父から押しつけられた歪んだ愛情。それ以来、彼女は自傷行為を通してしか自分の存在を認められなくなり、親友の珠希を支えに生きていた。
ある夏の雨の夜、一人の男が、酔いつぶれた母を家に連れて帰ってきた。彼は間柴隆臣と名乗った。最初は警戒心を抱く依子だったが、彼の人の良さにだんだんと心を開いていく。しかし何よりも依子の関心を引いたのは、彼の背中にある片翼のような傷痕だった。
隆臣は何かと理由を付けて家に来るようになり、依子はだんだんとそれを受け入れていった。それに比例するかのように珠希との距離はいていった。
隆臣の真意、珠希の選択、依子の決断、関係は大きく動き出す――。
京都造形芸術大学 2017年度卒業展 奨励賞受賞
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