人一倍心配性で、こだわりが強く、周囲との協調性がない宏は、ある夜、見知らぬ廃屋へ連れてこられ、毒虫に左目を刺されます。そこから彼の回想が始まり、いっしょに店づくりをしてきた幸平、可南子との生活が語られていきます。それは、実は情報をうまく処理できずパニックに陥る彼を必死に支える二人の日々であり、人間が生きるとは何かという本質的テーマと存在の意味を問う毎日だったのです。
虫に刺された翌日、店のオープン式に迎えにきた幸平でしたが、そこにいたのは、彼がこれまで生きた人間と間違えては混乱した一体のマネキンでした。外へ連れ出され行った先々にいるのはすべてマネキンで、迎え入れた可南子さえもそうでした。そんな中、式後、繁華街へ出るとマネキンが反対に「人間」になっているという錯綜した現実に遭遇します。自分は果してどちらなのか。やがて幸平との別れのときが訪れ、自らの特異な世界を自覚する中、逆転は徐々に整合性を取り戻し、彼はわずかですが関係性を回復する光を見つけるのです。
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