利根川はいつも悲しい色をしている。
この川の流れに身を寄せ、鮮魚を積んだ高瀬舟がゆらりゆらりと過ぎた時代を想う。布佐からこの川の涙が太平洋に呑まれるその果て、銚子までを歩く。この道を銚子街道(利根水郷ライン・国道356号線)と呼ぶらしい。
布佐河岸に、ひっそりと標識が立っている。「海まで76.00キロメートル = 19.352里」。数字は冷たく刻まれているが、この道程には人の汗と魚の匂い、風のざわめきが染みついている気がしてならない。
農民が、漁民が、商人が、そして子供たちが綿々と暮らし続けた川と道とが織りなす物語に身を浸す。私はただ約十九里半を歩きながら、幾重にも踏まれた人々の記憶の欠片を拾い集めるだけ。
本を入手していないとコメントは書けません。