フローレンス・ナイチンゲールの『看護覚え書』が、なぜ時代や国を超えて、このように多くの看護師を惹きつけるのか。それは、そのそこに流れる独創性と、事象を表現する言葉の力によるところが大きい。しかし、一方で、看護学生や臨床の看護師からは、『看護覚え書」を購入したけれど、全部読めていない、言葉の言い回しが難しくて続けられないなどの意見をよく聞く。
確かに『看護理論』という言葉には、人を寄せ付けない感覚を与えたり、難しくてわからないという印象を与える場合も少なくない。だが、看護というものは実践的な概念を含む用語である。また、この営み自体が優れて具体的であることを思えば、真の看護理論は抽象的で普遍的ではあるが、看護の本質を反映していて、看護の現実に則したものであるから、質の高い実践に一歩を踏み出す力を与え、看護の将来に対する見通しを与えるものである。
したがって、確かな理論に裏付けられた看護実践はどのような現実に出会おうとしても、決して揺らぐことがない。実践を通じてその確かさが実証され、看護を必要としている個人ならびに個人を取り巻くあらゆる事象に対して有用な能力を発揮する。
理論に裏付けられた実践は、先入観や偏見を伴わず、起きている事象をありのままを見て正しく判断し、一面的な事象ではなく、広く多くの事象間の関係を時間の流れとともに捉えることができる。このような観点からも、ナイチンゲールの『看護覚え書』は、全体を知ることによって部分を、部分を知ることによって全体を推し量ることが可能な技術に対するヒントを多く与えてくれる。卓越した普遍性と真理を提供し、看護実践の内面から分析する手掛かりを与えてくれる優れた理論書であることを紹介していきたい。
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