2019年7月18日更新
ルビを追加するとともに、表現や体裁を見直し、より読みやすくしました。
…………………………
【あらすじ】
境賛吉は、旅の途中、奈良井の駅で急に泊まりたくなった。
旅のあわれを味わってやろうと、硝子張りの明るい旅館をわざと避け、古びた一軒の旅籠屋に宿をとった彼は、翌日、洗面所の蛇口からいたずらに流れる三筋の水の音が、妙に気になった。
さらに夕暮れ時、風呂を使おうと湯殿へ行くと、二つ巴の紋の提灯の暗い明かりのもと、白粉の香りと女の気配を感じ、さらに声まで聞いたのである。
座敷に戻り、外の池を眺めていた境は、やがて自分の部屋の中、姿見に向かった女のうしろ姿を見る。
振り返ったその女は、気持ちの籠もった優しい眉の両方を、懐紙でひたと隠して、「…似合いますか。」
晩方、酒を酌み交わしながらの料理番の話から、女が何者であるかが明らかになるのである。
本を入手していないとコメントは書けません。