被虐児童の保護シェルターに収容されている幼い姉弟『るう』と『たあ』。とある事件をきっかけに、ふたりは施設を脱走し、東京で生きていくことを決意する。
門を乗り越え、夜の暗がりを手を取り合って駆け出したふたりの心には、ある老婆に語り聞かせられた、ひとつの物語があった。
「悪いことをすれば魔物がやってくる」
「魔物は真っ直ぐにしか進めない」
「魔物から逃げるには三叉路に向かえ――」
ふたりが恐れる『まもの』の正体とは。
そして、ふたりが逃避行のもとに辿り着く場所とは――。
NovelJam 2024参加作品
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NovelJam2024に於ける最もダークホースで大穴的な作品。これを描いた著者さんは以前は濃厚なBL作品を描いていて、個人的にはその台詞回しに生き生きとした生命力を感じ好感を抱いていた。最新作の今作品は少年少女の逃避行物となり過去作に籠められた地下世界的なパッションは若干稀釈されたが、それでも登場人物の子どもたちの生き生きとした台詞と、それに相反するかのような地の文の純文学的言い回しとの対比に、著者独自の文学性を感じてしまう。敢えて言うならば、小川洋子、江國香織などの女性ならではの優しい視点と残酷な現実対応能力が同居する筆致を水鳥たま季も備えている。
最後に、この物語の結末、ネグレクトから逃れる為に児童養護施設を脱走して自由を求めた姉妹と、認知症徘徊癖を受け入れた上で自由を得た老人の末路を、対比させることによって、これをハッピーエンドと捉えるか、バッドエンドと捉えるかで、読者の文学観は変わるだろう。