主人公はドイツでバイオリン職人として働く日本人女性。
多くのバイオリンを通じてさまざまな人々や出来事に出会う。
そしてその出会いの中で彼女は大きな使命に目覚めていく。
NovelJam 2024参加作品
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NovelJam全六回開催に全て参加された、三日間でクオリティ高い作品を描くインプロビゼーション・パフォーマティブ・ノベリストの最新作。この作家の特徴は日常的な舞台でリアリズム寄りの物語を語ることが基軸となるが、個人的には、それが基軸であっても決してよく言われる純文学のテンプレートに沿うことはなく、例えるなら物語の登場人物の心情描写も古典的純文学に見られる情緒過多なものではなく可能な限り湿度を抑えた最小限のミニマリズム的な感情の機微を描くのが得意だ。また個人的な見解だが、この作者が描く物語展開には意外な法則性があり、日常生活に基づいた物語が突如として生活の基軸がずれて、いつもとは違う景色がぽんと表示されることがある。例えるならマジックリアリズム的な展開とでも言えるのだが、ボルヘスやガルシア・マルケスほどに極端に魔術に傾倒する訳でもなく、かと言って村上春樹的なマジックリアリズムでもない、それこそが作者の澤俊之の持ち味とも言える日常の微妙な変化から立ち上がるバタフライエフェクト的なポジティブネスの顕現であると言える。
今回の新作、Meisterでは、主人公であるバイオリン職人の女性と、主従関係となるマエストロの男性との関係が、男女の恋愛関係を想起させる点に興味を抱いた。勿論、今や恋愛は性差を超える時代に於いて、古典的な恋愛表現を描けば純文学として評価される価値観は終わりを告げようとしている。このような時代に於いて敢えて挿入されたMeisterの人間関係というものを、我々は来たるべき時代を迎える為にも改めて追求すべきではないか。そういうことも思慮してしまう、深みのある作品であった。