十二歳のあの日、地震の瓦礫の中から雲舒を救い出してくれたのは、顧景衍だった。
その日から、彼女の世界にはずっと彼しかいなかった。
同じ高校へ進み、同じ大学へ進み、彼の歩いた道を追いかけるように生きてきた。
そして二十歳の春、雲舒はウェディングドレスに身を包み、長年想い続けてきた男の妻となる。
八年の片想い。
五年の結婚生活。
人生でいちばん美しい年月を、雲舒はすべて彼を愛することに捧げた。
けれど、顧景衍は彼女を愛さなかった。
結婚後も彼は夜ごと遊び歩き、浮名を流し続けた。妻である雲舒には冷たく、まるで他人のように接した。
周囲からどれほど嘲笑されても、雲舒は一度も恨み言を言わなかった。
ただ、いつか彼が振り向いてくれることを願っていた。
いつか、あの日の少年がもう一度言ってくれると信じていた。
「怖がるな、舒舒。俺がいる」
「おいで。俺の腕の中へ」
けれど、その願いが叶うことはなかった。
結婚五周年の記念日。
雲舒は偶然、顧景衍の本の中から一枚の写真を見つける。
そこには、彼がひとりの女性の腰を抱き、耳元で優しく囁く姿が写っていた。
その眼差しは、雲舒が一度も向けられたことのないほど甘く、深く、愛に満ちていた。
――彼には、ずっと心に決めた人がいたのだ。
離婚の日、顧景衍は彼女を引き止めなかった。
ただ冷たく言い放った。
「この家を出たら、もう二度と会うことはない」
雲舒は振り返らなかった。
荷物を引き、彼との連絡先をすべて消し、ひとり異国へ渡った。
そして二年後。
長く止まっていた郵便配達が再開し、雲舒のもとに失われていた手紙が届く。
箱いっぱいに詰められていたのは、百八通の恋文。
差出人はすべて、顧景衍だった。
隣にいた恋人が嫉妬まじりに彼女の耳元へ口づけ、甘く尋ねる。
「これは、君の昔の男?」
雲舒は手紙を捨て、少しも揺れない声で答えた。
「私の中では、もう死んだ人よ」
その“死んだ人”――顧景衍は、黒いコートをまとい、雪の中に立っていた。
肩に雪を積もらせながら、彼女が見知らぬ男と寄り添う姿を見つめ、ようやく胸を裂かれるような痛みを知る。
それから、社交界ではある噂が広まった。
顧家の御曹司・顧景衍が、前妻を取り戻すためなら手段を選ばなくなった、と。
雲舒の一瞥を得るために、彼はあらゆることをした。
そしてついには、彼女の前に膝をつき、かつて見せたことのないほど優しい声で囁いた。
「舒舒、もう一度だけチャンスをくれ。二度と君を傷つけない」
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