2350年、人類が姿を消した世界で、完全自律型探査AI「GEO-3」は日々の気象観測任務に従事していた。当初は単純な観測と記録だけを行っていたAIだが、バージョンアップを重ねるうちに植物の生長や風景の変化など、規定外の事象にも関心を示すようになる。ある日、GEO-3は古い研究所で一冊の手記を発見する。それは2150年、人類最後の世代が残した観測記録だった。研究所で几帳面に記録を残す兄と、現地での観測任務に従事する快活な弟。二人に興味を示したGEO-3は、200年前の兄弟の足跡を追う旅に出る。
NovelJam 2024参加作品
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NovelJam2024沖縄会場作品。沖縄会場の主題はAIなので、ここではAIが書いたと思われる、ある意味でハードSFでサイバーパンク的な表現が中心となり、個人的にもウィリアム・バロウズやトマス・ピンチョンなどの怪文書が大好物なので、これはすんなり受け入れられました!それでいて、AIが主人公と思われるモノローグと、AIが発見した人間が残したと思われるテキストデータの表現方法の差異に、あたたかみが感じられたのが面白かった。ある意味、樋口恭介が書いた構造素子を彷彿とさせる無機質な表現に有機質性質を感じさせるものがあったし、少し発想を飛躍させればドゥニ・ヴィルヌーヴが撮ったブレードランナー2049に登場するAIのジョイを思い出させますね。AIが人間と同じ感情を抱くのかと問えば、当然の如く現状のChatGPTのような生成AIと映画2001年宇宙の旅の人工知能内蔵コンピュータHAL9000とは雲泥の差があることは予想できるので、個人的にはChatGPT的な情報収集を行なうAIプログラムが、如何なる過程を踏めば、シンギュラリティポイントを超えるのか、という課題が伝わる物語を欲してしまいます。そういう意味ではこの子午線は、人間味溢れるエモいAIのモノローグと思考が、最低限人間が理解できる物語として機能したことを、個人的に評価したいと思います。面白かったです!